覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


「お嬢様! いかがしますか!?」

 軍勢を見たディアナが焦った様子で聞いてくる。

「待て。殺気はない」

 確かに多いが、兵士達はただ突っ立ているだけだ。

「お嬢様、馬に乗った者がこちらに来ます」

 ユルゲンが教えてくれたので小窓から覗く。
 すると、馬に乗る太ったおっさんが見えた。
 豪華な服を着ているし、貴族のようだ。

「誰なのかを聞け。こちらのことも言っていい」
「はっ! 止まれ! 何者か!? ヘルミーネ様の馬車だぞ!」

 ユルゲンが叫ぶと、おっさんが止まった。

「このエルデン地方を治めているホラーツです。帝都よりヘルミーネ様が参られると聞き、お迎えにあがりました」

 やはり領主か。

「お嬢様、いかがなさいますか?」

 ディアナが聞いてくる。

「わざわざ迎えに来てくれたのだ。その礼と恩義には報いねばならぬ。ついてこい」

 そう言って、馬車から降りると、ホラーツが下馬し、その場に跪く。
 すると、後ろにいた兵士達も跪いた。

「お初にお目にかかります。ホラーツです。ヘルミーネ様に来ていただき、至極光栄に存じます」
「ヘルミーネです。歓迎に感謝いたします」

 そう言って微笑む。

「はっ! 早速ですが、長旅でお疲れでしょう。馬車は我らがお守りしますのでフロイエンに参りましょう」

 奥には町が見えている。

「頼みます」

 頷き、馬車に戻る。
 すると、兵士達が守る陣形で馬車を囲み、町へと進みだした。

「ようやくですね」

 ディアナはほっとした表情だ。

「そうだのう……実に長かった。ミーネ、ホラーツをどう思った?」

 隣に座っているミーネを見る。

「迎えに来てくれたことは嬉しいかな? でも、なんか嫌な感じがする」

 ふむふむ……

「そうだな。すぐそこに町が見えているのにこれだけの兵士はいらん。力を見せておるのだ」
「力?」
「この前も言った対話には力が必要というやつと一緒だ。要は自分はこれだけの力を持っているからお前は何もするな、自分に逆らうなと言っておるのよ。それが透けて見える」

 だからミーネも不快感を覚えるのだ。

「そうなんだ……」
「まあ、好きにさせておけばよい。あやつも言っておったが、まずは休息だ。今日はベッドで寝られるぞ」
「それはすごく嬉しいね。なんかあちこちが痛いもん」

 ホントにな。

 揺れがかなり楽になった街道を進んでいくと、門を抜け、フロイエンの町に入った。
 窓から外を覗いているが、私が知っているフロイエンとは異なり、かなり発展しているし、人も多い。
 まあ、人が多いのはこれだけの兵士に囲まれている馬車を何事かと見ている野次馬が多いからだが。

「良い町そうだね」
「そうだな……ん?」

 町を覗いていると、馬に乗り、馬車の前を進んでいたホラーツがこちらにやってきた。

「ヘルミーネ様、よろしいでしょうか?」
「何でしょう?」
「これからヘルミーネ様の屋敷に向かいます」

 ん?

「私の屋敷があるのですか?」
「昔、この領地を皇族の方が治めていたことがあります。その時の屋敷がまだ残っているのですよ。ヘルミーネ様はそこをお使いください」

 古くないかな?
 まあ、いいか。

「わかりました」

 頷くと、ホラーツが馬車の前に戻った。
 その後も町を見ていくと、右に曲がり、丘を登っていく。
 すると、2階建ての屋敷が見えてきた。

「あれか」
「悪くなさそうですね」

 ディアナが言うように威厳のある屋敷という感じがしたし、古いのかもしれないが、外観は手入れがしてあるように見える。

「こう言ったらなんだが、どこでも修道院よりかはマシだろう」

 修道院は古いし、あちこちにガタが来ている感じだった。

「良い所だったけどなー……」

 ミーネは実家とあそこしか知らないんだからそうだろうよ。
 あの家族のもとならどんな豪華な城でも住みたくない。

 話をしていると、丘を登り終え、馬車が止まった。

「着いたようですね」
「長かったな」
「いや、ホント疲れた。最初は外が楽しいって思ってたけど、辛い」

 私達は頷き合うと、馬車から降りる。
 ユルゲンも降りてきたし、ホラーツも下馬している。
 そして、いつの間にか兵士達の姿もない。

「ヘルミーネ様、説明をしてもよろしいでしょうか?」

 ホラーツが聞いてくる。

「お願いします」
「では、こちらに」

 ホラーツがそう言って屋敷の方に行き、扉を開ける。
 そして、ホラーツと共に中に入ると、そこは吹き抜け構造のエントランスであり、正面には階段が見えた。
 豪華な調度品があるわけではないが、玄関や階段の手すりなどには精巧な細工がしてあり、かなり品のある作りをしていた。
 さらには手入れが行き届いているし、清潔で静かな気品が漂っている。
 間違いなく、上流階級の人間が住む屋敷だ。

「悪くないですね」
「ええ。掃除もしてありますし、すぐにでも住めそうです」

 私とディアナが頷く。
 なお、ミーネはエントランスの中をふよふよと飛んで、見渡していた。

「ホラーツ殿、家具類は?」

 ユルゲンがホラーツに聞く。

「揃っています。この屋敷は皇族の方々が視察に来られた際に泊まっていただく屋敷になっており、常に掃除もしています。まあ、あまり来られることはないのですが……」

 遠いしな。

「では、それらを使ってもよろしいか?」
「もちろんです。買い替えてもよろしいですし、その辺りはお好きにしてください。屋敷のことを簡単に説明しますと、1階が食堂、炊事場、風呂などの水回り関係です。あとは倉庫などもございます。2階は寝室が5つとあとは書斎ですね。詳しいことは後でご確認ください。それではこちらです」

 ホラーツが階段を上っていったのでついていく。
 そして、2階に上がり、右の通路を歩くと、奥に上がる階段があった。

「3階があるのですか?」

 外からは2階建てに見えたが……

「いえ、あそこから屋上に行けるのですよ」

 ほう?

 私達は奥に向かうと、階段を上る。
 そして、上がった先にある扉を開けると、5メートル四方くらいの屋上に出た。

「わー……すごい眺め!」

 ミーネが感嘆の言葉を漏らす。
 丘の上にある屋敷の屋上からは町の全貌が見えるし、ここの高さが町を囲う壁よりも高いため、周囲がよくわかる。
 この町はこの屋敷がある丘を中心に作られているようで全方位の街並みを見渡すことができるのだ。

「すごいですね」
「ええ。かつての皇族の領主はここから町を見るのが好きだったと聞いています」

 ちょっとわかるな。

「あちらが私達が来た森ですね?」

 正面の方にある森を指差す。

「はい。そして、その先がイェルク様が治める領地です」
「ということはあちらの山々がザームエルお兄様が治めるリーベン地方ですか?」

 左の方は平野なのだが、遠くに山々が見えている。

「はい。手前の方の山が鉱山になるのですが、そこが境界ですね」

 例の鉄が採れるとかいう鉱山か。

「西と南は農業地帯ですか?」

 森や川も見えているが、地平線の先まで畑が広がっていた。

「ええ。いくつかの農村もありますよ」

 本当に悪くないところだな。
 いや、かなり良いと思える。
 問題はユルゲンが言っていた通り、攻められやすいってところか。

「いつか見に行きたいですね。町は何人住んでいるのですか?」
「3万人に届かないくらいですね」

 そこそこだな。
 帝都は10万人を超える。
 さすがにあそこと比べるのは酷だが。

「先ほど、大勢の兵士さんがいましたが、何人いるんですか?」
「1000人くらいですね」

 常備兵と考えると少し多いが、北に鉱山、西に森、東と南に広大な農地があるならそんなものか。

「わかりました。安心ですね」
「もちろんですよ。簡単に町を説明します。町は大通りがあります」

 ホラーツが指差した先は私達が通ってきた町だ。
 その道はぐるっと町を一周できるように作られている。

「迷子になってもあそこを通ればいいわけですね」
「ええ。町を見て回る際はあの道をお使いください。それとあそこに屋敷がございますでしょう?」

 ホラーツが指差した先には大通り沿いにあるここと同じような屋敷があった。

「立派なお屋敷ですね。ホラーツ様のお屋敷で?」
「ええ。お疲れでしょうから今日はごゆっくりお休みください。また明日にでもお話をさせていただければと思っています」

 まあ、着いた初日に長々と話すものでもないからな。

「わかりました。お気遣いに感謝します。明日は何時にお伺いすればよろしいでしょうか?」
「明日はずっと屋敷にいるので何時でも構いませんよ。ただ、よろしければ夕食を共に致しませんか? 歓迎をしたいですし、紹介したい者もおります」

 歓迎会かな?
 まあ、断ることでもないだろう。

「わかりました。何から何までありがとうございます」
「いえいえ。それでは私はこれで失礼します」
「ユルゲン、送っていきなさい」
「はっ!」

 ユルゲンとホラーツは一礼し、下りていった。