覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


 ミーネと他愛のない話をしながら馬車で過ごしていると、次第に空が茜色に染まりだす。

「お嬢様、そろそろですのでディアナを起こしてください」
「はいよ。ディアナー、起きろー」

 座席に座り、窓に寄りかかりながら寝ているディアナを揺する。

「おはようございます……」
「はい、おはよう。もう夕方だがな」
「そうですか……すみません。寝ぼけていたようです」

 昨日からずっと寝てなかったわけだし、熟睡だったんだろうな。
 アホ面で寝てたし。

「よい。それよりもそろそろ野営だそうだ」
「わかりました」

 ディアナがメイド服を整えていると、馬車が止まった。

「お嬢様、今日はここまでです」
「ご苦労だった。野営の準備をせい」
「はっ!」

 ユルゲンが頷いたので馬車から降りる。

「ささ、お嬢様、こちらです」

 ディアナが腕を取ってきて、この場から離れる。

「何だ?」
「さすがにお身体を拭きませんと……」
「汚れを取る魔法があるだろう。使ってくれ」

 そういう魔法があるのだ。
 さすがに泥とか血は取れないが、汗くらいならなんとかなる。

「もちろん、それも使いますが、身だしなみは大事です」

 まあ、任せるか。

「わかった」

 私達は馬車から少し距離を取ると、ディアナが四方に幕を張り、周りから見えないようにした。
 そして、私の服を脱がし、身体を拭いていく。

「ふむ……」
「気持ちいいねー」

 ミーネが言うように気持ちが良い。
 どうでも良いと思っていたが、温かいお湯で濡らしたタオルで身体を拭かれるだけでも疲れが取れるような気がしたし、爽快感が違う。

「本当は湯船に入って頂きたいのですが、それはさすがに難しいです」
「わかっておる。すべてはフロイエンに着いたらだ。ケーキを焼け」
「かしこまりました」

 ディアナが微笑みながら頷く。

「お前も身体を拭いていいぞ」
「私は大丈夫です」
「身だしなみは臣下もだ。後でユルゲンにもそう伝えよ」
「わかりました」

 ディアナは私の身体を拭いてくれると、次に自分の身体を拭いていく。
 もちろん、メイド服を脱いでいるし、いつも巻き込んでいる髪も解いていた。
 しかし、髪を解くと、誰だかわからなくなる感じだ。

「違うねー。私もこうなるかな?」

 ミーネがディアナの身体を見ながら首を傾げる。
 まあ、スタイルの差は明確だ。

「将来に期待せい」
「このままだとぶくふく太りそうなんだよね。ノーレが砂糖ばっかり食べるから」
「その分、頭を使うし、動くから問題ない」

 私は太ったことなんか一度もない。

「天使様は何と?」

 ミーネと話していると、ディアナが苦笑いを浮かべながら聞いてくる。

「たいした話ではない」
「ディアナさんってユルゲンさんとどういう関係なのか聞いて」

 ハァ……

「ディアナ、ユルゲンとはどういう関係だ?」
「ユルゲン? 同僚、ですかね?」

 だと思う。

「もっと!」

 こいつ、実はずっと前から気になってたな?

「お前達は私の世話係のために雇われたんだったな?」
「はい。正確には言うと、元は暗部です」

 それで暗殺まがいなこともできるわけか。
 いや、いつでもミーネを殺せるようにか。

「やはりユルゲンと同時期か?」
「元々は同じ孤児院にいたんですよ。それをレナード公爵に拾われた形になります」

 ふーん……

「恋の気配!」

 ちょっとするな。

「恋仲か?」
「いえ……兄妹に近い感覚だと思います。私は姉だと思っていますけどね」

 3歳下でも姉か。

「ふーん……もういいか?」
「これからってところだね」

 どうだか……

 私達は身体を拭き終えると、寝巻きを着る。
 そして、馬車の方に戻ると、ユルゲンが焚火の前で待っていた。

「待たせたな」
「いえ。何かを獲ろうと思ったのですが、何もいませんでした」
「そうだろうな。まあ、携帯食料でよい。それを食べたら身体を拭いて、お前は寝よ」
「そうさせていただきます」

 私達は焚火を囲みながら夕食の携帯食料を食べる。
 さすがにミーネも慣れてきたようで不満は言わなかったが、ドライフルーツを食べた時は本当に幸せそうだった。

「お嬢様、追手はまだ来ますかね?」

 ユルゲンが聞いてくる。

「来るぞ。今夜だ」
「今夜ですか? やはり主からのお言葉で?」
「いや、私の読みだ」
「すみません。その読みをお聞かせ願いたいです」

 ふむ……見張るのはこいつらだし、教えておくか。

「こういうのは相手の立場になって考えるものだ。今回は父だな。父は早々に追手を差し向けたが、これは失敗した。私が撃退したし、逃げた者も父の元には戻るまい」
「そうだと思います」
「戻れないでしょうね」

 同じような立場の2人が頷く。

「報告がなく、追手と連絡が取れなくなったとなると、父は何らかの原因で失敗したと考える。そう考えるのが今日の朝だ。そこから追手を追加で出し、その追手はタジアの町に向かう。しかしながら追手もタジアの町で目撃情報がないとわかり、町を出て、さらに追ってくるわけだ。そして、追いつくのが今夜」

 向こうは馬だから早いのだ。

「追手が明日の朝方に町を発つとは考えられませんか? タジアの町を出るのは夕方になるでしょう?」

 普通は休みたい。

「一回目の失敗がなければそれも考えられるな。父もご立腹だろうし、追手も失敗を恐れるから寝ずに追ってくるだろう。ちょうど夜に襲撃できるからちょうどいいしな。それに父としてはこの森を抜けられると困るのだ。この森を抜ければ帝都直轄領地ではなく、別の領地貴族の領地となる。そこまで行かれると、いかに公爵といえども下手に動けない」

 皇帝の弟といえども貴族だ。
 簡単に他所の貴族と揉めごとを起こせない。

「なるほど……しかし、お嬢様、そうなると、休まずに森を抜けるべきでは?」
「休憩を入れたとはいえ、さすがに馬が持つまい。それに向こうも強行軍となると、少数精鋭だ。数が少ないから楽なものだぞ」

 正直、次は1000人で来いと言ったが、この状況で一番怖いのがじっくりと構えられ、大勢で来られることだ。
 矢も少ないし、何よりもこちらは満身創痍であり、数で押されたらいくら私でもどうしようもない。

「そうですか……」
「時間的には2時頃だな。ユルゲン、そのくらいに起こせ」
「わかりました」
「よし、では、寝るぞ。あ、お前はちゃんと身体を拭いてからな」

 そう言って、立ち上がると、ミーネと共に馬車の中に入る。
 そして、座席で横になり、就寝した。