なんか父がずっといきり立っており、それをフェリックスが諫めている。
「叔父上、落ち着いてください!」
「落ち着けるものか! このガキを斬れ!」
あー、うるさい。
皆の冷ややかな目が見えんのか?
「レナード! 落ち着かんか!」
ようやく皇帝が奥から出てきた。
「陛下! この者が私を殺そうと!」
指差すな。
無礼ぞ。
それにミーネが私の後ろに隠れてしまったではないか。
「何があったかを説明せよ」
「ヘルミーネが私の茶に毒を盛りました!」
なんで?
「ハァ……ヘルミーネ、まことか?」
「何故、私がそんなことをするのでしょう? レナード公爵殿は錯乱しているとしか思えません」
「私もそう思う」
「陛下!」
皇帝があっさり頷いたのでさすがに公爵が怒鳴った。
「レナード、これ以上騒ぐなら退席を命じる。話が進まん」
「くっ!」
父が苦々しい顔をしながらも座ると、皇帝も席につく。
「話を再開しよう。ヘルミーネ、領地が欲しいとのことだったな?」
「はい。国のために尽くしたいと思います」
「わかった。お前をフロイエンの領主に命じる。ただし、フロイエンにはすでに代官がおる。お前には領主の名を与えるが、実際の政治はその代官のホラーツに任せよ」
まあ、そこが落としどころか。
しかし、フロイエン……ド田舎だな。
「かしこまりました。ホラーツ様と共に頑張りたいと思います」
「くっ!」
だから睨むなっての。
こっちはお前のおかげで領主になれたから感謝しているんだぞ。
「うむ。他にあるか?」
皇帝が周囲を見渡したが、誰も何も言わなかった。
「ないようだな。では、この3年でそれぞれ結果を出せ。3年後、次の皇帝を決める。以上だ」
ふむ。
第一関門は突破。
まあ、真の勝負はこれからだがな。
「陛下、本日はありがとうございました。また、遅れてしまったことをお詫びします」
「よい。こちらの不備だ」
うん。
「陛下の寛大な心に感謝します。このヘルミーネ、身命を賭して、国家のため、主のために尽くしたいと思います」
「そうか。まあ、頑張ってくれ」
興味なさそー……
「はい。それでは失礼します。すぐに出立の準備をしなければなりませんので」
そう言って、立ち上がると、我先に部屋から出た。
そして、早歩きで廊下を進んでいく。
「領主になったねー。すごいよ、ノーレ」
ミーネが音の出ない拍手をする。
「ああ。とはいえ、フロイエンだ」
「大きい町だもんねー。頑張ろう」
ん?
「大きいのか? 田舎町だろ」
「ううん。帝国内では大きい方だし、人口も多いよ?」
あー、300年で変わっているのか。
「ヘルミーネ様?」
歩いていき、階段までやってくると、近衛隊長のレンナルトが待っていた。
「何だ?」
「あ、いえ、誰としゃべっておられるのですか?」
「天使だ」
「は?」
レンナルトが呆ける。
「私は主の声を聞き、主は天使を遣わせた。ただそれだけだ。剣を」
「あ、はい」
レンナルトがショートソードを返してくれたので腰に差した。
「レンナルト、フロイエンに行くには東門からか?」
「はい。そうなります。今日はここから修道院まで送ります。そして、出発の際も門まで送りましょう。そうするように陛下に命じられました」
父が私を殺すのを防ぐためだな。
しかし、そんなものはどうとでもなる。
父はすぐにでも動くだろう。
「いらぬ。私は今から出る。すでに準備はできているのだ」
「え? こ、これからですか? さすがにもう暗いですし……」
「すべては予定通りだ。レンナルト、いつでもフロイエンに来るがいい。早めに来れば来るほど人材が足りぬ私は重宝するぞ。無能でも将軍にしてやる」
しかし、大きくなった後は有能でも席がない。
「えっと……」
「何も知らぬガキの戯言だ。ではな」
そう言って、何段も飛ばして、階段を下りていく。
そして、あっという間に1階に下りると、そこからは走っていき、中庭に出る。
「門を開けよ!」
そう言うと、門がゆっくり開かれたので城の外に出た。
「おー、外だ」
「ここからが本番だぞ」
「敵が来るの?」
「間違いなくな」
そのまま走っていき、待っている馬車の元に向かう。
「お嬢様!」
馬車の前でディアナが待っており、私の姿を見ると、扉を開けた。
「よし」
私とミーネが馬車に乗り込むと、ディアナもすぐに乗り込んできて、扉を閉める。
「お嬢様、よくご無事で」
「何も問題ない。ユルゲン、出せ。東門だ」
「はっ!」
ユルゲンは返事をすると、馬車を動かした。
「お嬢様、晩餐会は?」
ディアナが聞いてくる。
「陛下はこれから3年で次の皇帝を決められるらしい。そのために成果を出せと言われた」
「3年……長いですね」
「本当にな。しかし、3年も持ちまい」
1年も持つか……
「陛下は高齢ですからね」
そこは関係ない。
「お嬢様、東門から先は?」
今度はユルゲンが聞いてくる。
「フロイエンだ。私は陛下よりフロイエンの領主に任じられた」
「おー! おめでとうございます!」
「さすがはお嬢様ですね」
父のおかげだ。
実に想定通りの動きをしてくれた。
「しかし、お嬢様、この時間では門は開いてないかと……」
「いいから東門に行け。門は私が開けさせる。おそらく、父はすぐに刺客を送ってくるぞ。お前達、昼に言った通り、今夜は寝られると思うな」
領主にしてもらうためにケンカを売りまくったから怒り心頭だろう。
「「はっ!」」
2人が頷き、そのまま待っていると、馬車が止まった。
「お嬢様、東門です」
ユルゲンがそう言うので扉を開け、顔を出す。
「門を開けよ!」
「門は20時で閉まります! 出られるなら明日にせよ!」
門を守る兵士が言い返してきた。
「私はヘルミーネ・クローネンシュタールである。皇帝陛下より、フロイエンの領主に任じられた! 即刻、門を開けよ!」
「城の外は真っ暗です! ヘルミーネ様を外に出すわけにいきませぬ!」
むう……城の兵士よりしっかりしておる……
「皇帝陛下より任じられたのならばすぐに行かなくてはならない! 火急なのだ! これ以上は斬る!」
そう言うと、門の前にいる兵士達が相談をし始めた。
これは時間がかかりそうな気がする。
ここは身分で押すより、敬意でいくべきだ。
「そなたらが国のために働かねばならぬように私も国のためにこの身を捧げなければならぬ! それが貴族であり、皇族の役目である! 邪魔をするな! 我はヘルミーネ・クローネンシュタールぞ!」
そう言うと、ゆっくりと門が開いた。
「よし、ユルゲン、行け」
「はっ!」
ユルゲンが返事をすると、馬車が動き出し、私達はようやく帝都を出た。

