私は幔幕の隙間から親族共の様子を見ている。
レナードとその子のエーミールは早々に退場し、今はフェリックスがヘルミーネに皆を紹介しているところだ。
「ふーむ……」
さすがはフェリックスだと思う。
ああいう気配りや周りを見る目ことは非常に長けた子だ。
多くの重臣が次の皇帝に推しているし、太子にという声も多い。
しかし、私はフェリックスをあまり買ってはいない。
優れた男だが、度胸と何が何でも己を通そうという我がないのだ。
補佐をさせれば一流だが、人の上に立つ器ではないと思っている。
「陛下」
私を呼ぶ声がしたので振り向くと、宰相と近衛隊長が立っていた。
「何だ?」
「どうですか?」
「いつもと変わらん。変わっているのはヘルミーネだけだな。何だ、あれは? あんな子だったのか?」
明らかにおかしい。
「家では幽閉され、ついには修道院に出された方です。本が好きな大人しい子と聞いております」
あれのどこが大人しいんだ?
軍人にでもなれって感じだぞ。
「領地を寄こせと言ってきたぞ」
「いかがさなさいますか?」
うーむ……当然、反対だ。
「なんであんなことを言ってきたんだと思う?」
「おそらく、己の身を守るためでしょう。ここに来たのもその1つかと……」
「というと?」
「ヘルミーネ様は明らかにおかしいですが、それ以上にレナード公爵の様子がおかしいです。あの2人、間違いなく、何かありましたな」
あったんだろうな。
「殺そうとして、失敗したわけか」
「間違いないでしょう。ヘルミーネ様はそれを恨んでいるのと同時にこのまま帝都にいたら危ないと考えたのだと思います」
賢い子だ。
それに度胸もある。
しかし、それだけの才があり、何故、今まで大人しくしていたのだろうか?
「ふう……」
会場を見るのをやめる。
すると、代わりに親衛隊長が様子を見出した。
「レンナルト、その剣は?」
レンナルトはその大きな体に合わない小さな剣を持っている。
「ヘルミーネ様より預かりました」
「剣まで持ってきたか……」
そこまでの覚悟があるわけだ。
その覚悟と度胸がフェリックスにあればな……
「陛下、領地の件は?」
「無視で良かろう。別にヘルミーネが死のうと影響はない」
元々、いないと思っていた子だ。
「それが少しマズいことになっています」
ん?
「何だ?」
「教会がヘルミーネ様を聖女と……」
ハァ?
「何を言っておる?」
「いや、私も先程、聞いた話です。教会がヘルミーネ様を主に選ばれた聖女と言い出しました」
何を言っている……
「確かに主の言葉を聞いたと言っていたが、でたらめだろう」
遅刻の言い訳に使っただけだ。
「事実はわかりません。しかし、教会がこう言いだしますと厄介です。もし、教会が本当に聖女と認めれば下手に手出しできません。しかし、レナード公爵のあの様子では……」
すぐにでも殺しそうだな。
「面倒なことを……」
別にヘルミーネの生死なんかどうでもよいが、教会との関係を悪くするのはよろしくない。
「聖女、ましてや、陛下の姪で皇族です。何かあれば民衆も良く思いません」
「わかっておる」
急に出てきて、乱すガキだ。
「陛下、私は領地を与えても良いかと思います。まずはレナード公爵と離すことを優先すべきです」
「あやつに領主にし、領地を治められると思うか?」
「飾りにでもしておけば良いのです。政治はさせずに大人しくさせておきましょう」
まあ、ヘルミーネの年齢を考えればそうしてもおかしくないか。
「ふーむ……ん?」
『――ふざけるな! お前達、この小娘を殺せっ!』
何を叩きつける音が聞こえたと思ったらレナードの怒鳴り声が聞こえてきた。
「レンナルト、何があった?」
いまだに覗いている男に聞く。
「ヘルミーネ様がレナード公爵にお茶を用意したのですが、公爵がそれで怒ったようです」
仲が悪すぎるな。
「それくらいのことで怒ったのか? 昔から狭量な男だったが、10歳のガキに何をしておるのだ」
あいつは絶対に次の皇帝にはさせない。
今日にでも遺言を書いておこう。
「いえ……ヘルミーネ様は自分と公爵にだけお茶を用意させました。おそらくは……」
「陛下、公爵はヘルミーネ様を毒殺しようとしたのでしょう」
それを返されて逆上か。
「その茶には毒が?」
「いえ、ヘルミーネ様は触れておりませんし、ただの意趣返しでしょう」
ヘルミーネも気が強いな。
完全に父親と決別する気だ。
普通の令嬢なら向こうが悪くても謝罪し、命乞いをするだろうに。
「陛下、やはりヘルミーネ様と公爵は離すべきです。もはや関係修復は不可能でしょうし、あの2人はどちらかが死ぬまで争います。公爵がすんなり殺せばよいのですが、下手に教会が出てくると、帝都が荒れますぞ」
むー……レナードに言っても聞かぬし、ヘルミーネを城に入れても状況は変わらぬか……
ヘルミーネを帝都に残してもデメリットしかない。
「外で勝手に死んでもらうか」
生きて遊んでいるでも良いし、好きにさせるべきか。
「それがよろしいかと。公爵を帝都から出すわけにいきませんし、ヘルミーネ様に退場していただきましょう」
それしかないな。
「しかし、ヘルミーネだけに領地を与えるのか? 他から不満が出そうだが」
すでに領地を持っている子も半分くらいはいるが、女子で持っている者はいない。
「陛下の子も公爵の子も賢い方々です。状況を見ればそうするべきと思われるでしょう。まあ、はっきり言えば、巻き込まれたくないと思います」
それもそうか。
「場所は?」
「フロイエンがよろしいかと」
フロイエン?
東の方にあるそこそこ大きい町だが……
「大きすぎんか? もっと地方の小さな町で良かろう」
「ヘルミーネ様は帝位継承権を持つ方です。相応というものがあります。それに西はイェルク様が治めるラインの町、北にはザームエル様が治めるボーディーの町があります。教会が何かを企んでも対処できます」
私の子のイェルクとレナードの子のザームエルが治める町に囲まれているわけか。
まあ、それでよいか。
あやつも身の危険が減れば好きに暮らすだろうし、あやつが15歳になった時に適当な貴族のところに嫁がせればそれで終わりだ。
さすがのレナードもそうなれば落ち着くだろう。
「わかった」
「陛下、そろそろお戻りを。フェリックス様が諫めておられますが、公爵のあの様子では……」
ハァ……最近、身体の調子が良くないというのに……

