「――様、お嬢様」
身体を揺すられる感覚で目が覚めると、ディアナが身体を揺すっていた。
「何だ?」
眠いよう……こんなにベッドが気持ちいいのは何十年振りだろう。
これが若さか……
「お嬢様、もう19時を回っております。それに馬車が届いたようです」
んー?
「早いな……20時ではなかったのか?」
「なんとか頼み込んで早めに納品していただきました」
心配性な奴らだ。
「そうか。では、起きるかの」
上半身を起こし、ベッドから降りた。
すると、ディアナに促され、鏡台の前に座らされる。
「お嬢様、ウィンプルはいかがしますか?」
ディアナが櫛で髪を解きながら聞いてくる。
「いらぬ」
「では、このままで」
ディアナが髪を解き終えたので立ち上がった。
「ディアナ、ユルゲンと共に先に本堂に行け」
「かしこまりました」
ディアナが一礼し、部屋から出ていったのでベッドの上で部屋を見渡しているミーネを見る。
「行くの?」
キョロキョロしていたミーネだったが、こちらを見てきた。
「ああ。おそらく、ここにはもう戻ってこない」
晩餐会でどう転ぼうが、そうなるだろう。
「そっか……」
「寂しいか?」
「ううん。ノーレもディアナさんもユルゲンさんも一緒ならそれがいい」
ミーネのことを考えれば、あいつらを生かして正解、か……
「行くぞ。しっかり私について参れ」
「うん」
テーブルの上にあるショートソードを腰に差すと、部屋を出る。
そして、階段を下り、本堂まで行くと、ディアナとユルゲンが扉の前で待っていた。
「お嬢様、シスター・アルビーナはすでに中におられます」
ユルゲンが教えてくれる。
「わかった。ついてこい」
そう言って、扉を開けると、中に入った。
「ヘルミーネ様、お待ちしておりました」
シスター・アルビーナが一礼する。
「お祈りを」
「こちらへ」
「お前達も来い」
2人を連れ、シスターと共に奥の女神像の前に立った。
「今日は何を祈られますか」
「平和を……争いのない平和な世界を作ることを祈ります」
「かしこまりました。では、どうぞ」
私とミーネは女神像の前に跪く。
「主よ、争いのない世界を望みます。どうか、我らをお導きください」
「主よ、争いのない世界を望みます。どうか、我らをお導きください」
ミーネも続き、祈り続ける。
そして、今日も5分以上も祈ると、立ち上がった。
「ヘルミーネ様、その剣は?」
シスターが腰の剣を見る。
修道女が持っていいものではないのだ。
ましてや、お祈りの場にふさわしくない。
「シスター・アルビーナ、お世話になりました。私は行かねばなりません」
「あなたは15歳までここにいて、洗礼を受けるはずでは?」
「もはやそれも叶わなくなりました。私はヘルミーネ・クローネンシュタール。偉大なるクローネンシュタールの血を引く皇族です」
そう言うと、シスターが目を伏せる。
「刺客が来ましたか……」
おや?
「おわかりで?」
「かつて、ここにも皇女様が修道女になるためにいらっしゃったと聞きます。しかし、毒を飲み、自殺されました」
自殺のわけがないな。
「シスター・アルビーナ、私は主の声を聞きました」
「主の?」
「ええ。戦い、国家を救えと。私は主の命に従い、国家のため、国民のためにこの命を差し出します」
「おー……主よ。何故、このような少女に試練を与えるのか……」
シスターが泣き崩れた。
「シスター・アルビーナ、私はこのような少女ではありません。偉大なるクローネンシュタールの子、ヘルミーネ・クローネンシュタールです。主のお言葉に従い、厄災を祓って、国家を救います」
「死ぬのですよ?」
「死を恐れることはありません。恐れるのは救世を見過ごすことです」
「おー……聖女よ。主はアイゼンライヒに光を与えた」
聖女、ね……
「シスター・アルビーナ、私は行きます。お世話になりました。せめて、今日だけは……今だけは死地に向かう私のためにお祈りください」
そう言うと、シスターが立ち上がり、祈る。
「…………気高きクローネンシュタールの子よ。主はいつも汝と共にある。偉大なる始帝エレオノーレ・クローネンシュタール様……どうか、この若き聖女を導いてください」
ああ……そうだ。
それでいい。
主はいつだって、私の味方だった。
我が人生に敗北も挫折もない。
あるのは勝利と栄光だけ。
そして、勝者はいつだって正しい。
主は勝者にしか祝福を与えないのだから。
「ありがとうございます。洗礼が叶わず、申し訳ありません」
「いえ、あなたは洗礼を受けてはいけない子です。さあ、行ってください」
「主とシスター・アルビーナに感謝を」
「ヘルミーネ様に勝利があらんことを……」
シスターの言葉を聞き、踵を返すと、本堂を出る。
「これより城に向かう」
「こちらへ」
ユルゲンに案内され、歩いていく。
すると、修道院の玄関前に馬車が置いてあったので乗り込む。
ミーネは当然ながらディアナも一緒に乗り込み、ユルゲンが御者だ。
「行け」
「はっ」
ユルゲンが馬車を動かし、進みだした。
「お嬢様、パンをお持ちしました。夕食が間に合いませんでしたので」
「ああ。ケーキを食べたし、それでよい」
ディアナからパンを受け取り、食べながら到着を待つ。
「お嬢様、どこまで参れば?」
小窓が開き、ユルゲンが聞いてくる。
「城内には入るな。城の前で止めよ」
「かしこまりました」
ユルゲンが頷いたのでそのままパンを食べる。
そして、パンを食べ終えた辺りで馬車が止まった。
「着いたか?」
「はい。いかがいたしましょう?」
ユルゲンが再び、聞いてくる。
「お前達はここで待て。陛下のところには私と天使で参る」
「危険では?」
危険だな。
でも、お前らを連れていったことで何も変わらない。
ならば、1人で良い。
「もうこの帝都に危険でないところなんかない。いいから待ち、いつでも出られるようにしておけ」
「かしこまりました」
「ご武運を」
2人が頷いたのでミーネと共に馬車を降りた。
「どうだ? 怖いか?」
ミーネに聞く。
「不思議と全然」
はっはっは。
大物だな。
「参るぞ。懐かしき我が城だ」
「うん」
私達は城に向かって歩き出した。

