「……驚いた。これほど瑞々しいお姿に戻られているとは」
天高くそびえ立つ神樹を見上げ、ハクがため息のような声を漏らした。
ハクと彼の一族がやってきた次の日──。
ログハウスにやってきたハクに「神樹様の姿を拝見したい」と言われ、彼と一緒に裏庭にやってきた。
「お前がいかに丁寧に世話をしていたのかが伺えるな、カズマ?」
「丁寧だなんて大げさだよ。ただ水をやってただけだし」
それに、瑞々しいと言うにはまだ程遠い見た目だし。
枝に少しづつ新芽が出てきてるけど、大きく変化しているようには思えない。
「ん? お前には変化がわからぬのか?」
空気を察したのか、ハクが尋ねてきた。
僕は小さく頷く。
「うん。樹皮は少し綺麗になったかなと思うけど」
「まぁ、無理もないか。ニンゲンの目には、マナが見えぬだろうからな」
マナって確か「魔力」のことだったっけ。
「神樹様の体内を流れるマナが濃くなっている。これならば、すぐに森にもマナが行き渡るはずだ」
「へぇ、そうなんだね」
森の生命と神樹には深いつながりがあるとハクは言う。
なんでも、森のマナは枯渇しかけていて、ハクが1週間ほど何も口にしていないのもそのせいなのだとか。
なるほどなぁ。
だったら、ハクたちの他にも困っている動物さんは多いのかもしれないな。
もし農園にやってきたら、餌のひとつでもあげよう。
なんて考えてたら、お腹が空いてきた。
「そろそろお昼ごはんにしようか」
「うむ。そうだな」
ハクも同じことを考えていたのか、尻尾がゆらゆらと揺れている。
今日のお昼ごはんは、釣り堀で釣ったヤマメの塩焼きにする予定。
特に手の込んだことはせず、串に刺して塩をまぶしじっくり焼くだけなんだけど、素材が良いのかすごく美味しいのだ。
あ、どうせなら釣りたての新鮮な魚で作ろうかな?
ハクに表に回ってもらい(ハクは大きいのでログハウス内に入れないのだ)意気揚々と玄関を開けると、沢山の白い塊が寝そべっていた。
ハクの一族が日向ぼっこをしていたのである。
「……あっ! お屋形様!」
僕の姿に気づいた狼さんたちが、一斉にパッと起き上がる。
「おはようございます!」
「今日も良い天気ですね! お屋形様!」
「あ、うん、おはよう。そうだね……うわっぷ」
ハクほどではないにしても普通の狼より一回り大きい狼さんたちにスリスリされ、もふもふに埋もれてしまう僕。
お、おお……これは、なんというふわふわの毛並み……。
ワシワシと撫でてあげたら、「次はぼく!」と言わんばかりに、他の狼さんたちが押し寄せてくる。
「わふ、わふわふっ!」
「あはは……くすぐったいってば」
総勢5匹の狼さんたちにもみくちゃにされてしまう僕。
最高の幸せタイムである。
しかし、と大量の狼さんをもふもふしながら思う。
農園の住人も一気に増えたな。
昨晩、ハクたちは思い思いの場所で過ごしていたみたいだけど、日当たりが良いのか、この場所が気に入ったみたい。
この場所を住処にするのかもしれない。
でも、いつ大雨が降るとも限らないし、このまま外で生活してもらうのはちょっと可哀想だよね?
元々森で過ごしていたわけだから雨なんて平気なのかもしれないけど、せめて雨露をしのげる場所くらいは用意してあげたいところ。
「犬小屋を作るか」
「……犬?」
もみくちゃにされていた僕を眺めていたハクが、不機嫌そうに顔をしかめた。
あ、犬呼ばわりしたのがまずかったのかも。
すみません、今のは失言でした。
──というわけで。
犬小屋あらため狼小屋は、ログハウスから少し離れた場所に作ることにした。
住む場所の近くに走り回れるスペースを確保しておいたほうが良いだろうからね。勢い余って畑を荒らされるのだけは避けねば。
「しかし、どうやって作ろうか?」
製作レシピで作れるのは道具だけ。
つまり、森の木を【造形】スキルで加工して、一から建てる必要がある。
大変だけど、本格的DIYって感じで楽しそうだ。
まずは場所の確保。
森を切り開くところから始める。
まず【強化】スキルで切れ味を上げた【石の斧】で木々を伐採。その後、ゴレムたちに頼んで、地面に【木の床】を敷いてもらう。
道の代わりにこうやって板を敷いているんだけど、この板が無いと雨が降ったときにぬかるみになってしまうんだよね。
そのうち石づくりのおしゃれな道にしたいよね。
お次に狼小屋用の建材を作っていく。
ひとまず【大きめの窓】をアンロック。
製作レシピに建物自体はないけれど、装飾品や家具はあるのだ。
「必要素材は……【硬い木】と【砂】か」
畑を耕したときに【砂】はいくつか手に入ったな。
足りなくなったら面倒だし、追加でゴレムに集めてもらおうか。
切り開いた場所で建物の大体の位置を決め、製作スキルで作った【木の柱】を四隅に立ててみる。
「ゴレム4号、この柱を持って立っていてくれるかい?」
「ごむごむ(うん、わかった)」
最終的に柱は【石のハンマー】で地中に打ち付けて【凝固】スキルで固定するつもりだけど、その前に建物の大きさを決める必要があるからね。
ハク一族は全員で6匹いるから、ゆとりを持って生活できるように少し大きめの40平方メートルほどのサイズにした。
馬小屋の倍くらいの広さかな?
これくらいあれば、寝っ転がったり伸びをしても余裕だし、ストレスを感じないと思う。
床は【木の床】、壁は【丸太の壁】で組み立てていく。
ゴレム数人かかりで【丸太の壁】を持ち上げ、組んでもらったところで【凝固】スキルをかけていく。
「壁には窓を入れたいから、スペースを開けといてね」
「ごむむ!(わかった!)」
ゴレムと一緒に建築するのは初めてだけど、思いの外スムーズだな。
彼らは小さい身体なのに力持ちで、高い場所も身軽に登れるみたいだし、建築能力はすごく高いのかもしれない。
お次は屋根の組み立てだ。
こっちも丸太シリーズで統一した。
素材は【木の屋根】よりも多く必要だけど、見た目がおしゃれなのだ。
入口のドッグドアは、ハクでも入れるように大きめに。
最後に夜でも明かりが確保できるように、天井にランタンを取り付けた。
「よし、これで狼小屋が完成だ」
改めて入口から狼小屋を眺める。
太い丸太で組まれた梁はしっかりと天井を支えていて、窓から差し込む光を受けて温かみのある黄金色に輝いている。
室内は5匹の巨狼が寝転がっても余裕のある広さが確保されている。
天井近くには、丸太で組まれたキャットウォークならぬ「ウルフウォーク」が設置されていて、歩き回ったり身をくねらせたりできるようにした。
小屋の隅には、大きな水鉢と食器。
「お、おお……?」
小屋の中に入ってきたハクの尻尾が、ゆらゆらと揺れはじめる。
「カズマ、この小屋はもしや!」
「うん。ハクたちの家だよ」
「やはりか!」
相当嬉しかったのか、駆け寄ってきたハクにぺろぺろと舐められてしまった。
ハクに促され、彼の一族が小屋の中に恐る恐る入ってくる。
最初は警戒していたみたいだけど、すぐに尻尾がわっさわっさと動きだした。
「……えっ!? これ僕たちの家なの!? すごい!」
「これなら雨が降っても大丈夫だね!」
「ありがとう、お屋形様!」
「お館様、大好きっ!」
「あ、ちょ、みんな!?」
ライオンくらいの大きさの狼さん総勢5匹に囲まれ、再びもみくちゃタイムがスタートする。
ふわふわの毛に埋もれて、あやうく昇天しかける僕。
ハク一族のふわふわの毛って、太陽の香りがしてすごく気持がいいんだよ。
「僕たち、お屋形様のためにこの農園を守るから!」
「何かあったらいつでも僕たちに相談してね! お屋形様!」
「う、うん、ありがとう」
体はハクほどの大きくないけれど、彼らも立派な狼だ。
鋭い聴覚と嗅覚は、農園に忍び寄るどんな脅威も逃さないだろう。
これで農園の守りは安心だ。
──まぁ、ちょっとだけ過剰戦力な気がしなくもないけど。
天高くそびえ立つ神樹を見上げ、ハクがため息のような声を漏らした。
ハクと彼の一族がやってきた次の日──。
ログハウスにやってきたハクに「神樹様の姿を拝見したい」と言われ、彼と一緒に裏庭にやってきた。
「お前がいかに丁寧に世話をしていたのかが伺えるな、カズマ?」
「丁寧だなんて大げさだよ。ただ水をやってただけだし」
それに、瑞々しいと言うにはまだ程遠い見た目だし。
枝に少しづつ新芽が出てきてるけど、大きく変化しているようには思えない。
「ん? お前には変化がわからぬのか?」
空気を察したのか、ハクが尋ねてきた。
僕は小さく頷く。
「うん。樹皮は少し綺麗になったかなと思うけど」
「まぁ、無理もないか。ニンゲンの目には、マナが見えぬだろうからな」
マナって確か「魔力」のことだったっけ。
「神樹様の体内を流れるマナが濃くなっている。これならば、すぐに森にもマナが行き渡るはずだ」
「へぇ、そうなんだね」
森の生命と神樹には深いつながりがあるとハクは言う。
なんでも、森のマナは枯渇しかけていて、ハクが1週間ほど何も口にしていないのもそのせいなのだとか。
なるほどなぁ。
だったら、ハクたちの他にも困っている動物さんは多いのかもしれないな。
もし農園にやってきたら、餌のひとつでもあげよう。
なんて考えてたら、お腹が空いてきた。
「そろそろお昼ごはんにしようか」
「うむ。そうだな」
ハクも同じことを考えていたのか、尻尾がゆらゆらと揺れている。
今日のお昼ごはんは、釣り堀で釣ったヤマメの塩焼きにする予定。
特に手の込んだことはせず、串に刺して塩をまぶしじっくり焼くだけなんだけど、素材が良いのかすごく美味しいのだ。
あ、どうせなら釣りたての新鮮な魚で作ろうかな?
ハクに表に回ってもらい(ハクは大きいのでログハウス内に入れないのだ)意気揚々と玄関を開けると、沢山の白い塊が寝そべっていた。
ハクの一族が日向ぼっこをしていたのである。
「……あっ! お屋形様!」
僕の姿に気づいた狼さんたちが、一斉にパッと起き上がる。
「おはようございます!」
「今日も良い天気ですね! お屋形様!」
「あ、うん、おはよう。そうだね……うわっぷ」
ハクほどではないにしても普通の狼より一回り大きい狼さんたちにスリスリされ、もふもふに埋もれてしまう僕。
お、おお……これは、なんというふわふわの毛並み……。
ワシワシと撫でてあげたら、「次はぼく!」と言わんばかりに、他の狼さんたちが押し寄せてくる。
「わふ、わふわふっ!」
「あはは……くすぐったいってば」
総勢5匹の狼さんたちにもみくちゃにされてしまう僕。
最高の幸せタイムである。
しかし、と大量の狼さんをもふもふしながら思う。
農園の住人も一気に増えたな。
昨晩、ハクたちは思い思いの場所で過ごしていたみたいだけど、日当たりが良いのか、この場所が気に入ったみたい。
この場所を住処にするのかもしれない。
でも、いつ大雨が降るとも限らないし、このまま外で生活してもらうのはちょっと可哀想だよね?
元々森で過ごしていたわけだから雨なんて平気なのかもしれないけど、せめて雨露をしのげる場所くらいは用意してあげたいところ。
「犬小屋を作るか」
「……犬?」
もみくちゃにされていた僕を眺めていたハクが、不機嫌そうに顔をしかめた。
あ、犬呼ばわりしたのがまずかったのかも。
すみません、今のは失言でした。
──というわけで。
犬小屋あらため狼小屋は、ログハウスから少し離れた場所に作ることにした。
住む場所の近くに走り回れるスペースを確保しておいたほうが良いだろうからね。勢い余って畑を荒らされるのだけは避けねば。
「しかし、どうやって作ろうか?」
製作レシピで作れるのは道具だけ。
つまり、森の木を【造形】スキルで加工して、一から建てる必要がある。
大変だけど、本格的DIYって感じで楽しそうだ。
まずは場所の確保。
森を切り開くところから始める。
まず【強化】スキルで切れ味を上げた【石の斧】で木々を伐採。その後、ゴレムたちに頼んで、地面に【木の床】を敷いてもらう。
道の代わりにこうやって板を敷いているんだけど、この板が無いと雨が降ったときにぬかるみになってしまうんだよね。
そのうち石づくりのおしゃれな道にしたいよね。
お次に狼小屋用の建材を作っていく。
ひとまず【大きめの窓】をアンロック。
製作レシピに建物自体はないけれど、装飾品や家具はあるのだ。
「必要素材は……【硬い木】と【砂】か」
畑を耕したときに【砂】はいくつか手に入ったな。
足りなくなったら面倒だし、追加でゴレムに集めてもらおうか。
切り開いた場所で建物の大体の位置を決め、製作スキルで作った【木の柱】を四隅に立ててみる。
「ゴレム4号、この柱を持って立っていてくれるかい?」
「ごむごむ(うん、わかった)」
最終的に柱は【石のハンマー】で地中に打ち付けて【凝固】スキルで固定するつもりだけど、その前に建物の大きさを決める必要があるからね。
ハク一族は全員で6匹いるから、ゆとりを持って生活できるように少し大きめの40平方メートルほどのサイズにした。
馬小屋の倍くらいの広さかな?
これくらいあれば、寝っ転がったり伸びをしても余裕だし、ストレスを感じないと思う。
床は【木の床】、壁は【丸太の壁】で組み立てていく。
ゴレム数人かかりで【丸太の壁】を持ち上げ、組んでもらったところで【凝固】スキルをかけていく。
「壁には窓を入れたいから、スペースを開けといてね」
「ごむむ!(わかった!)」
ゴレムと一緒に建築するのは初めてだけど、思いの外スムーズだな。
彼らは小さい身体なのに力持ちで、高い場所も身軽に登れるみたいだし、建築能力はすごく高いのかもしれない。
お次は屋根の組み立てだ。
こっちも丸太シリーズで統一した。
素材は【木の屋根】よりも多く必要だけど、見た目がおしゃれなのだ。
入口のドッグドアは、ハクでも入れるように大きめに。
最後に夜でも明かりが確保できるように、天井にランタンを取り付けた。
「よし、これで狼小屋が完成だ」
改めて入口から狼小屋を眺める。
太い丸太で組まれた梁はしっかりと天井を支えていて、窓から差し込む光を受けて温かみのある黄金色に輝いている。
室内は5匹の巨狼が寝転がっても余裕のある広さが確保されている。
天井近くには、丸太で組まれたキャットウォークならぬ「ウルフウォーク」が設置されていて、歩き回ったり身をくねらせたりできるようにした。
小屋の隅には、大きな水鉢と食器。
「お、おお……?」
小屋の中に入ってきたハクの尻尾が、ゆらゆらと揺れはじめる。
「カズマ、この小屋はもしや!」
「うん。ハクたちの家だよ」
「やはりか!」
相当嬉しかったのか、駆け寄ってきたハクにぺろぺろと舐められてしまった。
ハクに促され、彼の一族が小屋の中に恐る恐る入ってくる。
最初は警戒していたみたいだけど、すぐに尻尾がわっさわっさと動きだした。
「……えっ!? これ僕たちの家なの!? すごい!」
「これなら雨が降っても大丈夫だね!」
「ありがとう、お屋形様!」
「お館様、大好きっ!」
「あ、ちょ、みんな!?」
ライオンくらいの大きさの狼さん総勢5匹に囲まれ、再びもみくちゃタイムがスタートする。
ふわふわの毛に埋もれて、あやうく昇天しかける僕。
ハク一族のふわふわの毛って、太陽の香りがしてすごく気持がいいんだよ。
「僕たち、お屋形様のためにこの農園を守るから!」
「何かあったらいつでも僕たちに相談してね! お屋形様!」
「う、うん、ありがとう」
体はハクほどの大きくないけれど、彼らも立派な狼だ。
鋭い聴覚と嗅覚は、農園に忍び寄るどんな脅威も逃さないだろう。
これで農園の守りは安心だ。
──まぁ、ちょっとだけ過剰戦力な気がしなくもないけど。



