朝、ベッドから起きて窓を見ると雨でしっとりと濡れていた。
異世界農園生活がスタートして5日目にして、初めての雨だ。
ずっと晴れの日が続いていたので、もしかして雨が降らないのではと少しだけ心配していたけれど、杞憂だったらしい。
農園生活なんて張り切ってはじめたは良いものの、雨が降らない地域でした──じゃ目も当てられないからなぁ。
「ごむごむ(おはよう、お屋形様)」
「あ、おはようゴレム5号」
リビングに行くとゴレム5号が朝ご飯の準備をしてくれていた。
と言っても、冷蔵庫に入れてある木の実やベリーをお皿に盛り付けてくれているだけだけど。
ちなみに、見た目が同じゴレムをどうやって区別しているのかというと、おでこに番号を書いているのである。
5と書かれているのでゴレム5号。
彼には主にログハウス内の仕事を割り振っている。
そんなゴレム5号が盛り付けしているお皿からベリーをつまみ食いして、縁側へと向かう。
「よいしょ……っと」
縁側の引き戸を開けると、雨がしとしとと静かに降り続ける裏庭に、薄く白い靄が立ち込めていた。
その靄の向こうに見える、巨大な神樹の影。
その姿を見て、僕は「お」と驚いてしまった。
ようやく神樹に変化が起きていたのだ。
今まで葉っぱがひとつもなかった枝に、緑色の小さな葉が付いていた。
慌てて庭に出て、近くで確かめる。
間違いない。新芽だ。
これはビッグニュースだよね。
まだ3日しか世話をしていないけど、毎日世話をしていた甲斐があった。
この芽が大きくなれば、神樹も本来の姿を取り戻すはず。
一体どんな見た目なのか、今から楽しみだ。
『神樹ポイントを250ポイント得ました』
「お、結構貰えたな」
神樹に頭を垂れ、根本付近に生えている雑草を抜いてからリビングに戻る。
しかし、新芽が出てきたってことは、もう水やりも必要ないかもしれないな。
リビングのテーブルには、ゴレム5号が用意してくれた様々な木の実やベリーが並んでいた。
マルベリーにグランベリー、ローガンベリー。
クルミにヘーゼルナッツ、カシューナッツ。
全部ログハウスの周囲で採れたものだ。
この森って、本当にたくさんの種類の実がなってるよね。
ボクの【神樹カバン】の中には野菜の苗や種も沢山あるし、水はひと月分くらいの量がある。
ただ、その水を川から汲んできてもらったとき、ちょっとした事件が起きた。
ゴレム3号の腕が濡れてボロボロになってしまったのだ。
ログハウスでしばらく休んでもらったら元の形に戻っていたけど、どうやら彼らは水気に弱いらしい。
土で出来た【土のゴーレム】なので仕方ないか。
開墾レシピの中には石で出来た【石のゴーレム】が作れるレシピもあるので、次からはそっちの使い魔を作ろうと思う。
素材に【花崗岩】が必要なので、どこかで採取してくる必要があるけど。
雨が上がったら、ゴレムたちに探してもらおうかな?
リビングの窓から見える玄関前の畑区画には、いくつも野菜が並んでいる。
とうもろこしの畝が3つ。
トマト、きゅうり、ナス、ピーマンがふたつずつ。
ダイコンとニンジンはひと畝ずつ植えた。
水やりと雑草処理はゴレム1号から4号までの4匹にお願いしている。
どれくらい野菜が収穫できるか楽しみだ。
ゴレムたちに畑や森での収集作業をお願いしている間、僕は農園の開拓を続け、畑区画の隣を切り拓いて釣り堀を作った。
糸を水に垂らすとどこでも淡水魚が釣れる【釣り竿】のための釣り堀だ。
水は森の川から引いて来ようかと思ったけど、すごく時間がかかりそうだったので【木のバケツ】を沢山作ってゴレムたちに運んでもらった。
実際に魚を放流するわけじゃないので、これで十分だよね。
完成したのは昨日なので、今日から魚釣りを始める予定だ。
そろそろ木の実にも飽きたし、今晩は魚の塩焼きが食べられるかもしれない。
「……ん?」
窓の外を眺めていると、ちょいちょいと僕のズボンの裾を突っつかれた。
足元を見ると、おでこに「1」と書かれたゴレム1号が。
「どうした?」
「ごむご~む。れむごむ(表に変なものがいるよ)」
ゴレム1号が、窓の外を指差す。
変なもの? なんだろう?
まさか訪問者とか?
でも、ここにきて人間はおろか動物すら見かけていないしな。
「どこに変なのが?」
「ごむむ(あそこ。釣り堀のちかく)」
ゴレム1号に促され、畑区画の向こう──完成したばかりの釣り堀に視線を送った。
すると、モヤの奥に何やら白い塊が見えた。
毛むくじゃらの丸い玉、と言えばいいのだろうか。
雨に濡れてしなっとなってるけど、白い毛に覆われた何かがいる。
「あ、あれ何?」
「ご、ごむごむ……(わ、わかんない……)」
ゴレムに確認してきてもらおうかと思ったけど、雨に濡れたら全身ボロボロになっちゃいそうなので、ひとりで確認にいくことにした。
一応、【石の斧】を片手に持って。
だって何が起きるかわからないし……。
ここ異世界だし、モンスターがいても不思議ではない。
「ごむれむ?(ほ、本当に大丈夫?)」
「れむごむ!(いざとなったら、助けにいくよ!)」
「ごむむん!(襲われたら、ちゃんと「襲われたよ!」って叫んでね!)」
「う、うん、ありがとう」
ゴレムたちに見送られ、慎重に釣り堀へと向かう。
畑区画を抜けて、柵の影から様子を伺う。
白い塊は釣り堀のそばでもぞもぞと動いていた。
何かを探している?
「よ、よし……もう少し近づこう」
抜き足差し足、慎重に足を運ぶ。
近づくにつれ、それが単なる白い玉ではないことがわかった。
巨大な白い尻尾が、わさっと揺れたからだ。
尻尾だけじゃない。
丸太ほどの四肢に、ピンと立った耳。
「……お、狼?」
思わずゴクリと息を飲んでしまった。
巨大な白い狼が、釣り堀の中を覗き込んでいたのだ。
大きさは軽トラックほど。
釣り堀から落ちないように地面をしっかりと踏みしめている両手には、巨大な爪が見える。
な、なんで狼が釣り堀の中を覗いてるんだ?
というか、すごく大きい狼だな。
こんなのに襲われたら、ひとたまりもないぞ。
ここは刺激せず、穏便に帰ってくれるのを待っていたほうが良さそうだ。
そう判断してゆっくりと踵を返そうとした、そのときだ。
「……む?」
ふいに狼がこちらを向いた。
異世界農園生活がスタートして5日目にして、初めての雨だ。
ずっと晴れの日が続いていたので、もしかして雨が降らないのではと少しだけ心配していたけれど、杞憂だったらしい。
農園生活なんて張り切ってはじめたは良いものの、雨が降らない地域でした──じゃ目も当てられないからなぁ。
「ごむごむ(おはよう、お屋形様)」
「あ、おはようゴレム5号」
リビングに行くとゴレム5号が朝ご飯の準備をしてくれていた。
と言っても、冷蔵庫に入れてある木の実やベリーをお皿に盛り付けてくれているだけだけど。
ちなみに、見た目が同じゴレムをどうやって区別しているのかというと、おでこに番号を書いているのである。
5と書かれているのでゴレム5号。
彼には主にログハウス内の仕事を割り振っている。
そんなゴレム5号が盛り付けしているお皿からベリーをつまみ食いして、縁側へと向かう。
「よいしょ……っと」
縁側の引き戸を開けると、雨がしとしとと静かに降り続ける裏庭に、薄く白い靄が立ち込めていた。
その靄の向こうに見える、巨大な神樹の影。
その姿を見て、僕は「お」と驚いてしまった。
ようやく神樹に変化が起きていたのだ。
今まで葉っぱがひとつもなかった枝に、緑色の小さな葉が付いていた。
慌てて庭に出て、近くで確かめる。
間違いない。新芽だ。
これはビッグニュースだよね。
まだ3日しか世話をしていないけど、毎日世話をしていた甲斐があった。
この芽が大きくなれば、神樹も本来の姿を取り戻すはず。
一体どんな見た目なのか、今から楽しみだ。
『神樹ポイントを250ポイント得ました』
「お、結構貰えたな」
神樹に頭を垂れ、根本付近に生えている雑草を抜いてからリビングに戻る。
しかし、新芽が出てきたってことは、もう水やりも必要ないかもしれないな。
リビングのテーブルには、ゴレム5号が用意してくれた様々な木の実やベリーが並んでいた。
マルベリーにグランベリー、ローガンベリー。
クルミにヘーゼルナッツ、カシューナッツ。
全部ログハウスの周囲で採れたものだ。
この森って、本当にたくさんの種類の実がなってるよね。
ボクの【神樹カバン】の中には野菜の苗や種も沢山あるし、水はひと月分くらいの量がある。
ただ、その水を川から汲んできてもらったとき、ちょっとした事件が起きた。
ゴレム3号の腕が濡れてボロボロになってしまったのだ。
ログハウスでしばらく休んでもらったら元の形に戻っていたけど、どうやら彼らは水気に弱いらしい。
土で出来た【土のゴーレム】なので仕方ないか。
開墾レシピの中には石で出来た【石のゴーレム】が作れるレシピもあるので、次からはそっちの使い魔を作ろうと思う。
素材に【花崗岩】が必要なので、どこかで採取してくる必要があるけど。
雨が上がったら、ゴレムたちに探してもらおうかな?
リビングの窓から見える玄関前の畑区画には、いくつも野菜が並んでいる。
とうもろこしの畝が3つ。
トマト、きゅうり、ナス、ピーマンがふたつずつ。
ダイコンとニンジンはひと畝ずつ植えた。
水やりと雑草処理はゴレム1号から4号までの4匹にお願いしている。
どれくらい野菜が収穫できるか楽しみだ。
ゴレムたちに畑や森での収集作業をお願いしている間、僕は農園の開拓を続け、畑区画の隣を切り拓いて釣り堀を作った。
糸を水に垂らすとどこでも淡水魚が釣れる【釣り竿】のための釣り堀だ。
水は森の川から引いて来ようかと思ったけど、すごく時間がかかりそうだったので【木のバケツ】を沢山作ってゴレムたちに運んでもらった。
実際に魚を放流するわけじゃないので、これで十分だよね。
完成したのは昨日なので、今日から魚釣りを始める予定だ。
そろそろ木の実にも飽きたし、今晩は魚の塩焼きが食べられるかもしれない。
「……ん?」
窓の外を眺めていると、ちょいちょいと僕のズボンの裾を突っつかれた。
足元を見ると、おでこに「1」と書かれたゴレム1号が。
「どうした?」
「ごむご~む。れむごむ(表に変なものがいるよ)」
ゴレム1号が、窓の外を指差す。
変なもの? なんだろう?
まさか訪問者とか?
でも、ここにきて人間はおろか動物すら見かけていないしな。
「どこに変なのが?」
「ごむむ(あそこ。釣り堀のちかく)」
ゴレム1号に促され、畑区画の向こう──完成したばかりの釣り堀に視線を送った。
すると、モヤの奥に何やら白い塊が見えた。
毛むくじゃらの丸い玉、と言えばいいのだろうか。
雨に濡れてしなっとなってるけど、白い毛に覆われた何かがいる。
「あ、あれ何?」
「ご、ごむごむ……(わ、わかんない……)」
ゴレムに確認してきてもらおうかと思ったけど、雨に濡れたら全身ボロボロになっちゃいそうなので、ひとりで確認にいくことにした。
一応、【石の斧】を片手に持って。
だって何が起きるかわからないし……。
ここ異世界だし、モンスターがいても不思議ではない。
「ごむれむ?(ほ、本当に大丈夫?)」
「れむごむ!(いざとなったら、助けにいくよ!)」
「ごむむん!(襲われたら、ちゃんと「襲われたよ!」って叫んでね!)」
「う、うん、ありがとう」
ゴレムたちに見送られ、慎重に釣り堀へと向かう。
畑区画を抜けて、柵の影から様子を伺う。
白い塊は釣り堀のそばでもぞもぞと動いていた。
何かを探している?
「よ、よし……もう少し近づこう」
抜き足差し足、慎重に足を運ぶ。
近づくにつれ、それが単なる白い玉ではないことがわかった。
巨大な白い尻尾が、わさっと揺れたからだ。
尻尾だけじゃない。
丸太ほどの四肢に、ピンと立った耳。
「……お、狼?」
思わずゴクリと息を飲んでしまった。
巨大な白い狼が、釣り堀の中を覗き込んでいたのだ。
大きさは軽トラックほど。
釣り堀から落ちないように地面をしっかりと踏みしめている両手には、巨大な爪が見える。
な、なんで狼が釣り堀の中を覗いてるんだ?
というか、すごく大きい狼だな。
こんなのに襲われたら、ひとたまりもないぞ。
ここは刺激せず、穏便に帰ってくれるのを待っていたほうが良さそうだ。
そう判断してゆっくりと踵を返そうとした、そのときだ。
「……む?」
ふいに狼がこちらを向いた。



