新たに農園に移住してきたモンスターさんたちは、思った以上に得意分野がはっきりとしていた。
例えば、豚の亜人のオークさんは、
「力仕事なら任せてください。ドラゴンの背骨くらい余裕で担げますよ」
と、自信満々だった。
ムキッと力こぶを作った上腕は僕のももくらい太かったし、誇張表現ではなさそうだ。
でも、ドラゴンって巨大なトカゲみたいなモンスターのことだよね?
その背骨を余裕で担げるなんて、丸太だったら軽く4、5本くらいいけるんじゃないだろうか。
そんなオークさんは総勢5人も農園に移住してくれた。
これで木材の運搬がだいぶはかどりそうだ。
素材系は製作スキルで作った【収納カバン】の中に入れて運搬していたけど、神樹カバンと違って収納数に限界があるからね。
……あ、ついでにハク一族と一緒に農園の見回りをお願いしちゃおうかな?
お次にヒアリングしたウッドベアさんは狩りと木の実集めが得意で、スプリガンさんは作物の育成に長けているらしい。
見た目がアヒルのグリフィンさんは、害虫駆除に熟練している。
これはまぁ、見た目通りですね。
そんな中、いくつか気になる技能を持つモンスターさんがいた。
そのひとりが黒いクモのモンスター、シャドウスパイダーのシャドウさんだ。
「僕がお尻から出す糸『ナイトシルク』は、軽くて強靭な闇属性の繊維なんだけど、それを使って服や帽子を作れるよ」
「おお、それは凄いですね!」
この世界にやってきてちょっと困っていたのが「着替え」なんだよね。
なにせ、服は今着ている一張羅しかないのだ。
川から引いてきた水で洗濯して、開墾スキルの【加熱】で乾かしていたんだけど、着替えの服があるとすごく助かる。
それに、帽子があったら農作業中の日差し対策にもなるからね。
シャドウさんには農園内に「服飾屋」を開いてもらい、軽くて通気性が高い着替え用の服と、農作業用の服を作ってもらうことにした。
もうひとりの気になったモンスターさんは、トカゲの亜人……サラマンダーのサラさんだ。
なんと彼は鍛冶職人だという。
「ステンの森で鍛冶をはじめて60年くらい経つんですが、その前は魔王領で鍛冶屋をやってたんです」
「魔王領というのは?」
「北方山脈を越えた向こうにある、魔王ネロス様が統治する領土のことですよ」
なんでも大陸の北部の半径50キロほどの荒野が魔王によって統治されているのだという。
魔王と聞くと人類の敵みたいなイメージがあったけど、人間と「灰の結界協定」という不可侵条約を結び、平和に暮らしているらしい。
しかも周辺地域との関係も良好で、人の往来が活発に行われているのだとか。
この世界の魔王さんって、ずいぶんと温和な統治者なんだな。
そんなことを教えてくれたサラさんもシャドウさんと同じく、住居の他に専用の仕事場を用意することにした。
もちろん、炉がある鍛冶場だ。
溜め池がある水源区画と道を挟んだ反対側を「職人区画」にして、シャドウさんの服飾屋と鍛冶場のふたつを建てることにした。
早速、ゴレムと手分けして施設の建設を開始したんだけど、手伝ってくれたモンスターさんの口から気になる噂を耳にした。
なんでも、サラさんが鉄鉱石の在処を知っているのだという。
彼は森の中で採取した鉄鉱石を使って、魔王領に住む得意先に鉄製品を卸していたらしい。
鉄鉱石は僕も喉から手がでるほど欲しい素材。
それがあれば、農園の農具が石製品からグレードアップできるからね。
これはサラさんに情報をいただくしかないな。
──てなわけで。
鍛冶場が完成した次の日、サラさんの鍛冶場へと顔を出してみることにした。
「こんにちは~」
鍛冶場の入り口を開け、そっと中へと入る。
僕をお出迎えしてくれたのはサラさん──ではなく、巨大な炉だ。
僕の背ほどある炉にはすでに火が入っていて、赤々と燃える炎の熱が鍛冶場全体を包みこんでいた。
鍛冶場の壁には大小さまざまのハンマーやトングが無造作に掛けられ、棚には鉄くずや釘、作りかけの鍬や鎧の部品が積まれていた。
昨日完成したばかりなのに、何年も使い込まれているような雰囲気がある。
ちなみにこの炉は石を【造形】スキルで加工して作った。
並んでいるハンマーやトングなどの道具は、元々サラさんが使っていたもの。
流石は60年以上鍛冶職を続けているサラマンダーさんだ。
「おや、こんにちは。お屋形様」
裏口のドアが開き、サラさんがやってきた。
その手には真っ黒い鉱石が。
あ、もしかして採取してきた鉄鉱石かな?
「こんにちは。もうお仕事をはじめたんですか?」
「魔王領に住む得意先からの仕事がありますからね」
小さく肩を竦めるサラさん。
「でも、お屋形様のためなら時間を作りますよ。欲しいものがあったら何でも言ってくださいね」
「ありがとうございます」
なんて良い人……じゃなかったモンスターさんだろう。
サラさんがチロリと舌を出しながら続ける。
「それで、今日はなにか御用が?」
「実はサラさんが鉄鉱石の鉱床がある場所を知っているという噂を聞きまして」
「鉄鉱石の鉱床ですか?」
僕はかいつまんで状況をサラさんに説明した。
「……なるほど。そういうことでしたか。ステンの森の奥に鉱床がいくつかありますよ。場所をお教えしましょう」
「おお、本当ですか!? 助かります!」
サラさんは棚から丸まった大きな地図を取り出すと、現在位置を踏まえた上で近い鉱床の場所を教えてくれた。
一番近い場所でも片道30分はかかりそうだけど、これで石の道具から卒業できるな。農園の開拓作業も一気に進みそうだ。
ゴレムに場所を覚えてもらって採石しに行ってもらうのがいいか──なんて考えていたら、額から汗がたらりと落ちてくる。
鍛冶場の熱で、いつの間にか全身汗だくになっていた。
「……初めて鍛冶場に来たんですが、結構暑いんですね」
「そうですね。炉の熱は定期的に逃がしてやる必要がありますから、鍛冶場の中だけでなく周囲もかなり熱くなります。どうぞお気をつけください」
「え? 熱を逃がすんですか?」
意外だな。
むしろ逃さないようにしているのかと思った。
「一定の温度で安定していないと、ひび割れや歪みの原因になるんですよ。なので、炉を適切な温度に保つために熱をあそこから外に出しているんです」
サラさんが視線を向けたのは、炉から天井に伸びている大きな煙突だ。
鍛冶場を建てたとき、サラさんから「煙突を用意して欲しい」とお願いされていた。
てっきり火を起こしたときに煙を排出するための煙突だと思ってたけど、温度管理の意味合いもあったんだな。
「高温のガスや予熱が溜まると危険性も増しますし、鍛冶場の炉には排熱が不可欠なんです」
「そうなんですね。それは知らなかった」
良質な鉄製品を作るために周囲が高熱になるのは致し方なしだ。
まぁ、住居区画とは離れているし、問題はないだろう。
でも、その熱、何かに再利用できないかな?
冬はまだ遠いけど「セントラルヒーティング」みたいに、温水を住宅地のパネルヒーターまで運んで暖めるとか──。
「……あっ」
「……? どうなさいました?」
「排熱で良いことを思いつきました。ちょっとだけ相談してもいいですか?」
「ええ、もちろん良いですけど?」
サラさんはそう言いつつも、不思議そうに首を捻るのだった。
例えば、豚の亜人のオークさんは、
「力仕事なら任せてください。ドラゴンの背骨くらい余裕で担げますよ」
と、自信満々だった。
ムキッと力こぶを作った上腕は僕のももくらい太かったし、誇張表現ではなさそうだ。
でも、ドラゴンって巨大なトカゲみたいなモンスターのことだよね?
その背骨を余裕で担げるなんて、丸太だったら軽く4、5本くらいいけるんじゃないだろうか。
そんなオークさんは総勢5人も農園に移住してくれた。
これで木材の運搬がだいぶはかどりそうだ。
素材系は製作スキルで作った【収納カバン】の中に入れて運搬していたけど、神樹カバンと違って収納数に限界があるからね。
……あ、ついでにハク一族と一緒に農園の見回りをお願いしちゃおうかな?
お次にヒアリングしたウッドベアさんは狩りと木の実集めが得意で、スプリガンさんは作物の育成に長けているらしい。
見た目がアヒルのグリフィンさんは、害虫駆除に熟練している。
これはまぁ、見た目通りですね。
そんな中、いくつか気になる技能を持つモンスターさんがいた。
そのひとりが黒いクモのモンスター、シャドウスパイダーのシャドウさんだ。
「僕がお尻から出す糸『ナイトシルク』は、軽くて強靭な闇属性の繊維なんだけど、それを使って服や帽子を作れるよ」
「おお、それは凄いですね!」
この世界にやってきてちょっと困っていたのが「着替え」なんだよね。
なにせ、服は今着ている一張羅しかないのだ。
川から引いてきた水で洗濯して、開墾スキルの【加熱】で乾かしていたんだけど、着替えの服があるとすごく助かる。
それに、帽子があったら農作業中の日差し対策にもなるからね。
シャドウさんには農園内に「服飾屋」を開いてもらい、軽くて通気性が高い着替え用の服と、農作業用の服を作ってもらうことにした。
もうひとりの気になったモンスターさんは、トカゲの亜人……サラマンダーのサラさんだ。
なんと彼は鍛冶職人だという。
「ステンの森で鍛冶をはじめて60年くらい経つんですが、その前は魔王領で鍛冶屋をやってたんです」
「魔王領というのは?」
「北方山脈を越えた向こうにある、魔王ネロス様が統治する領土のことですよ」
なんでも大陸の北部の半径50キロほどの荒野が魔王によって統治されているのだという。
魔王と聞くと人類の敵みたいなイメージがあったけど、人間と「灰の結界協定」という不可侵条約を結び、平和に暮らしているらしい。
しかも周辺地域との関係も良好で、人の往来が活発に行われているのだとか。
この世界の魔王さんって、ずいぶんと温和な統治者なんだな。
そんなことを教えてくれたサラさんもシャドウさんと同じく、住居の他に専用の仕事場を用意することにした。
もちろん、炉がある鍛冶場だ。
溜め池がある水源区画と道を挟んだ反対側を「職人区画」にして、シャドウさんの服飾屋と鍛冶場のふたつを建てることにした。
早速、ゴレムと手分けして施設の建設を開始したんだけど、手伝ってくれたモンスターさんの口から気になる噂を耳にした。
なんでも、サラさんが鉄鉱石の在処を知っているのだという。
彼は森の中で採取した鉄鉱石を使って、魔王領に住む得意先に鉄製品を卸していたらしい。
鉄鉱石は僕も喉から手がでるほど欲しい素材。
それがあれば、農園の農具が石製品からグレードアップできるからね。
これはサラさんに情報をいただくしかないな。
──てなわけで。
鍛冶場が完成した次の日、サラさんの鍛冶場へと顔を出してみることにした。
「こんにちは~」
鍛冶場の入り口を開け、そっと中へと入る。
僕をお出迎えしてくれたのはサラさん──ではなく、巨大な炉だ。
僕の背ほどある炉にはすでに火が入っていて、赤々と燃える炎の熱が鍛冶場全体を包みこんでいた。
鍛冶場の壁には大小さまざまのハンマーやトングが無造作に掛けられ、棚には鉄くずや釘、作りかけの鍬や鎧の部品が積まれていた。
昨日完成したばかりなのに、何年も使い込まれているような雰囲気がある。
ちなみにこの炉は石を【造形】スキルで加工して作った。
並んでいるハンマーやトングなどの道具は、元々サラさんが使っていたもの。
流石は60年以上鍛冶職を続けているサラマンダーさんだ。
「おや、こんにちは。お屋形様」
裏口のドアが開き、サラさんがやってきた。
その手には真っ黒い鉱石が。
あ、もしかして採取してきた鉄鉱石かな?
「こんにちは。もうお仕事をはじめたんですか?」
「魔王領に住む得意先からの仕事がありますからね」
小さく肩を竦めるサラさん。
「でも、お屋形様のためなら時間を作りますよ。欲しいものがあったら何でも言ってくださいね」
「ありがとうございます」
なんて良い人……じゃなかったモンスターさんだろう。
サラさんがチロリと舌を出しながら続ける。
「それで、今日はなにか御用が?」
「実はサラさんが鉄鉱石の鉱床がある場所を知っているという噂を聞きまして」
「鉄鉱石の鉱床ですか?」
僕はかいつまんで状況をサラさんに説明した。
「……なるほど。そういうことでしたか。ステンの森の奥に鉱床がいくつかありますよ。場所をお教えしましょう」
「おお、本当ですか!? 助かります!」
サラさんは棚から丸まった大きな地図を取り出すと、現在位置を踏まえた上で近い鉱床の場所を教えてくれた。
一番近い場所でも片道30分はかかりそうだけど、これで石の道具から卒業できるな。農園の開拓作業も一気に進みそうだ。
ゴレムに場所を覚えてもらって採石しに行ってもらうのがいいか──なんて考えていたら、額から汗がたらりと落ちてくる。
鍛冶場の熱で、いつの間にか全身汗だくになっていた。
「……初めて鍛冶場に来たんですが、結構暑いんですね」
「そうですね。炉の熱は定期的に逃がしてやる必要がありますから、鍛冶場の中だけでなく周囲もかなり熱くなります。どうぞお気をつけください」
「え? 熱を逃がすんですか?」
意外だな。
むしろ逃さないようにしているのかと思った。
「一定の温度で安定していないと、ひび割れや歪みの原因になるんですよ。なので、炉を適切な温度に保つために熱をあそこから外に出しているんです」
サラさんが視線を向けたのは、炉から天井に伸びている大きな煙突だ。
鍛冶場を建てたとき、サラさんから「煙突を用意して欲しい」とお願いされていた。
てっきり火を起こしたときに煙を排出するための煙突だと思ってたけど、温度管理の意味合いもあったんだな。
「高温のガスや予熱が溜まると危険性も増しますし、鍛冶場の炉には排熱が不可欠なんです」
「そうなんですね。それは知らなかった」
良質な鉄製品を作るために周囲が高熱になるのは致し方なしだ。
まぁ、住居区画とは離れているし、問題はないだろう。
でも、その熱、何かに再利用できないかな?
冬はまだ遠いけど「セントラルヒーティング」みたいに、温水を住宅地のパネルヒーターまで運んで暖めるとか──。
「……あっ」
「……? どうなさいました?」
「排熱で良いことを思いつきました。ちょっとだけ相談してもいいですか?」
「ええ、もちろん良いですけど?」
サラさんはそう言いつつも、不思議そうに首を捻るのだった。



