おっさん聖騎士の無自覚無双。ド田舎の森で木刀振り続けていたら、なぜか聖女学園の最強聖騎士に推薦された。~普通の魔物を倒しているだけなのに、聖女のたまごたちが懐いてくるんだが~

 アレシーナの炎が俺たちを解放し、ゴーレムの魔石を砕いた。
 セシリアが魔法陣を書きかえ、みんなを回復させた。

 2人とも魔力を使い果たしてヘトヘトだが、その瞳に宿る闘志はまったく失われていない。

 「2人とも良く頑張ったな。休んでていいぞ」

 そう言い残し、俺は1人ゴーレムの前へ歩み出る。

 「ぬぅうう……おっさんか。おまえさえいなければ、計画は完璧だったのだ! いや、そうする!
 ―――――――――魔導機械兵GR2(フロストゴーレム)! このおっさんを叩き潰せ!」

 船の甲板に立つ長官が、血走った目で怒鳴った。
 鉄の人形はその両腕をあげてこちらへズンズンと前進してくる。その胸部はアレシーナの炎によりヒビこそ入ったが、なお勢いは失っていない様子である。

 グンと振り下ろされる鉄の拳。

 俺は木刀を握りなおす。
 やることは、いつもと同じ。

 「ぬんっ!」

 振り下ろされた拳を木刀で弾く。

 今度はもう一方の拳が俺に迫るが……

 「ぬんっ!」

 再び弾かれる鋼の拳。ゴーレムが弾かれた勢いでぐらりと揺れる。

 『ゴォオオオオオ!!』

 俺が拳を弾いたことに苛立ったのかはわからんが、聞いたことのない叫びをあげてその瞳が赤く光った。
 次の瞬間―――

 『ゴォ!』『ゴォ!』『ゴォ!』『ゴォ!』『ゴォ!』

 その巨体からは想像できないような速さで、鉄パンチの連打を繰り出すゴーレム。
 へぇ、こりゃ凄いな。

 怒涛のラッシュに合わせて、俺も木刀を振りまくる。


 「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」


 木刀と鉄が激しくぶつかり合って、構える軸足が少しばかり地面にめり込んだ。ふむ、なかなかの力だが、まあ普段通りの素振りで対処可能だな。
 怒涛の連撃が降り注ぐなか、俺の振りは一切乱れずただ軽快に音を響かせる。

 「ちょ、長官! おっさんが木刀一本ですべての打撃を弾いています!」
 「ば、馬鹿なぁ! ぬんっ! ぬんっ! と言ってるだけではないかぁ!」

 そう言われてもな。これは俺のリズムなんだよ。
 心の呼吸、身体の呼吸、時の呼吸、すべてを整える掛け声だ。

 「――――――ぬんっ!」

 『ゴッ……ゴォオオッ!?』

 弾かれた勢いで、背中から地面に倒れるゴーレム。
 ズンという鈍い音が地面を揺らす。

 「ぐっ……くそぉおお」
 「ちょ、長官。て、撤退しましょう。あのおっさんは想定外すぎます!」
 「撤退だとぉ……ふざけるな! 魔導機械兵GR2(フロストゴーレム)、オーバーブースト起動だぁあああ!!」

 ゴーレムの赤いランプのような目が、点灯をはじめた。
 なんかやるのか……?

 「ちょ、長官! 出力はすでに想定値ギリギリです。これ以上の負荷には耐えられません!」
 「この一戦のみもてばかまわん! ここでおっさんとケリをつけるのだ!」

 『―――ゴシュウウウウウウ』

 ゴーレムの全身が震えだす。
 ギチギチと鉄骨が悲鳴を上げ、身体の継ぎ目から蒸気が噴き出した。


 「魔導機械兵GR2(フロストゴーレム)、物理速度・物理攻撃力――――――最大出力だ!
 ここでおっさんを始末しろぉおおおお!!」


 ゴーレムがそのデカい腕をぐるぐると回し始めた。
 まるで風車みたいに重量感ある腕が空気を裂き、その衝撃波で広場の砂利が跳ね上がる。
 どうやら敵は最大の一撃を放つようだな。

 『ゴフゥウウウウ!』

 地を揺らして、巨体が俺へと突進してくる。その勢いのまま……

 ――――――ズドォオオン!!

 おおっ、デカいのに跳んだぞ。
 かなりの跳躍をみせたゴーレムは俺との距離を縮めつつ、急降下してきた。

 空中から振り下ろされるのは、回転で勢いをつけた拳。
 さらにやつの全体重がのしかかっている。

 ならば俺も最大の一撃で迎え撃とう。

 腰を落として、木刀をグッと握る。

 身体の呼吸で全身に力がみなぎっていく。
 心の呼吸で集中力が増していく。

 そして、時の呼吸で絶妙のタイミングをはかる。


 『ゴルゥウウウウウウ!』


 ゴーレムが俺の間合いに入ったその刹那―――


 「―――――――――ぬぅうううんんんん!!」


 木刀を一振り。

 鈍い鉄がへしゃげる音。
 直後、ゴーレムはもはやその場にいなかった。

 木刀を振って埃を落とす。

 「ひとつの木刀(エンドブレイド)―――鉄人形。おまえの負けだ」

 俺は上空を見上げて、静かに呟いた。


 さてと……あとはあいつらか。
 俺の視線の先には、鉄の船とその乗員たち。

 「ちょ、ちょ、長官んん。こ、こ、これはぁああ……」
 「ば、ばかなぁあ……オーバーブーストの発動した魔導機械兵GR2(フロストゴーレム)を木刀一本で打ち負かすだとぉお……」
 「ひぃいい、あ、あれは、おっさん型のゴーレムなのでは!?」
 「ぬぅうう、信じられん……王国ごとき技術力で、こんな規格外のゴーレムを作り出すとはぁああ!」

 なんかよくわらけんど。

 「おい、おれは普通のおっさんだからな」

 人形と一緒にすんなよ。

 「クソォ……潜航だ。やむを得ん、撤退する」
 「了解! 潜航準備ぃい!」

 「おい、逃げるんか?」

 「クハハハ、そうだ! 今回は想定外の新型ゴーレムが出たせいで計画が狂ったが、次はそうはいかんぞ! 大艦隊を引き連れて来てやる!」

 だから俺はゴーレムじゃないと言ってるに。
 というか……

 「たぶん逃げるの無理だぞ」

 俺は長官たちの頭上を指さした。

 「はあ? 地中にさえ潜航すれば退却など容易い……ん? なんだ? あれは?」
 「ちょ、長官ぁああん! 魔導機械兵GR2(フロストゴーレム)が上空から!!」

 そう、さっき俺が吹っ飛ばした鉄のゴーレムだ。
 ほぼ原形をとどめていないが、鉄の塊だな。ようやく落ちてきたか。

 「ほ、本艦への直撃コースですぅううう!!」
 「い、いかん! 緊急潜航、回避運動ぉおお!」
 「ひ、ひぎゃあ! ま、間に合いませんんん!」


 ――――――ドゴォオオオオン!!


 鉄の塊が船に直撃して、すさまじい振動と土煙を巻き上げた。

 ……ふぅ。終わったな。



 ◇◇◇



 数日後。

 「ぬぅん!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」

 日の出の空の下、俺は学園の庭園で木刀を振る。

 「ボクレンさーん!」
 「ボクレン!」

 駆けてきた2人の美少女はセシリアとアレシーナ。
 二人ともすっかり元気になった。

 ゴーレムの直撃をくらった鉄の船は完全に破壊された。
 敵の生き残りは、その後駆け付けた王国聖騎士団に全員連行されていった。長官ってやつも生きてた……まあギリギリでだが。
 聖騎士も聖女もけが人は多数出てしまったが、死者はゼロだ。


 「さて、朝練再開だな」

 「はいっ、ボクレンさん!」
 「ええ、ボクレン!」

 満面の笑みを返してくれる二人を見て、思わず頬がゆるむ。

 そこへリンナ、バレッサ、レイニの三人も姿を現した。

 「貴様ぁ……早朝から変態的な顔をするんじゃない!」
 「先輩はいつもどおりっすね~」
 「ああぁ、朝からなんか嫌な予感がするぅうう。」

 にぎやかな声に囲まれながら、俺は木刀を振り続ける。

 森で木刀振ってた時は常に1人だった。
 それはそれで良かったんだが……

 セシリアがここに連れてきてくれて、俺の人生は大きく変わった。
 まわりに人がたくさんいる。

 ―――こういう朝練も悪くない。

 「ぬんっ!」

 おっさん聖騎士の木刀が風を裂く。
 いつもの朝の始まりだ。



――――――――――――――――――
これにて第一部完でございます。
お読みいただき、ありがとうございました。