おっさん聖騎士の無自覚無双。ド田舎の森で木刀振り続けていたら、なぜか聖女学園の最強聖騎士に推薦された。~普通の魔物を倒しているだけなのに、聖女のたまごたちが懐いてくるんだが~

 ◇リンナ副隊長視点◇


 学園祭二日目の賑わいは、一瞬で恐慌へと変わった。
 さっきまで笑い声で満ちていた学園に、今は悲鳴と獣の唸り声が反響している。
 胸を締め付ける焦燥感の中、あたしは剣を抜きながら走っていた。

 「西棟付近に魔物です!」

 伝令の聖騎士が並走してきた。

 「ラウルの隊を向かわせなさい!」と、横に並ぶエリクラス隊長が即座に指示を出す。

 「南体育館付近にも魔物出現!」
 「ミーシャの隊を!」

 矢継ぎ早に飛び込む報告。
 次々と仲間たちを振り分けていく隊長の声に、あたしは舌打ちを堪えた。

 ―――戦力が散らばりすぎている。
 しかし、魔物がこれほど広範囲で同時に出現しているのでは、戦力を分散させる以外に手はない。
 だが一体どういうことだ? 学園長の【結界】が張られている学園に、魔物が入り込めるはずがない。
 そもそも王都にどうやって……
 その考えを巡らす間もなく、甲高い悲鳴があたしの耳をつんざいた。

 「キャァアアア!」

 「リンナ!」と隊長が私を呼ぶ。

 視線を向ければ、黒い毛並みの魔物―――ブラックウルフが聖女たちを追い詰めている。
 そこまでレベルの高い魔物ではない。

 「そこまでだ!」

 あたしは跳躍して一気に間合いを詰めると、剣を突き出した。


 「――――――聖突風一閃(ストームスラスト)!!」


 【加護】によりあたしの剣は緑の風をまとい、鋭い一閃がブラックウルフを貫く。
 断末魔の悲鳴を上げて、魔物は崩れ落ちた。

 逃げ惑っていた聖女たちが、震える声で口々に礼を述べてくる。

 「た、助かりました……! 教室から出たら、急に……【結界】を張る暇もなくって……」
 「なんだと!? なぜ教室から出た!」あたしは思わず声を荒げた。

 「え……だって、『聖女は全員、中央広場に集まれ』って……」

 「誰だ、そんな勝手な指示を出したやつは! 教室に隠れていろ!」

 怒声が自分でも驚くほど鋭く響いた。
 この混乱の中で、生徒たちを無闇に動かして外にだす? あり得ない。

 「落ち着きなさい、リンナ」

 エリクラス隊長があたしを静かに制した。

 「今、教室に返すのは逆にリスクが高いでしょう。魔物がどこに潜んでいるかわかりませんし」

 「……くっ」

 確かに、頭に血が上っていた……隊長の言う通りだ。魔物の居場所が定かでない以上、中途半端に動かせば逆に犠牲者を増やしかねない。
 なんだこれは、嫌な予感がする……

 これは単なる事故では片付けられない。誰かが意図的に仕掛けたものだ。

 「我々も中央広場に向かいましょう。途中にいる聖騎士聖女も拾いつついきますよ」

 「……了解しました、隊長!」

 あたしは剣を鞘にしまうと、怯える聖女たちに声をかける。

 「君らもついてこい! 絶対にあたしから離れるな!」

 混乱の中で不安と戸惑いが隠せない生徒たちにそう言うと、あたしは先頭を切って駆け出した。
 絶対にまもる。それが聖騎士副隊長である私の責務だ。



 ◇◇◇



 ◇ボクレン視点◇


 「魔物だぁ! ひぃ、こっちにもいるぞ!」
 「うわぁ! 逃げろぉ!」

 怒号と悲鳴が学園中に響き渡る。
 すぐさま別の声が重なった。

 『一般市民のみなさんは、速やかに学園より退去してください!』
 『聖女のみなさんは中央広場に集まり、次の指示を待ってください!』

 やけに通る声だが、聞き覚えがないな。
 が、そんなことより……「ギュルウウウ!」という声が付近から聞こえてきた。

 俺は木刀を握り直し、近場で魔物と交戦している聖騎士の元へ駆け込む。レイニその他数名の聖騎士がイノシシ魔物と戦っていた。
 魔物は俺が急に現れたことに刺激され、牙をむいて襲いかかってくるが―――

 「ぬんっ!」

 鈍い音と共に魔物は崩れ落ち、動かなくなった。

 「な、なに今の……」
 「え? 木刀装備なんだけど……」

 その場にいた聖騎士たちが呆然と口を開ける。俺も普段からまん人たちだから、詳しくはしらん。
 その横で、レイニが肩をすくめて言った。

 「あ、この人は変態ですけど、強いので安心してください」

 「おい! レイニ!」

 なんだその紹介の仕方は! と文句を返しつつもレイニから話を聞く。
 レイニたちの話によると、魔物が分散して現れているらしい。彼女たちは犬型を倒して、この現場でイノシシ魔物と交戦に入っていたとのことだ。
 「おかしいっすね……」とバレッサがつぶやく。

 「さっきのブラックウルフにせよ、いまのレッドボアにしろ単体で現れたっす」
 「それが、なにかおかしいんですか?」

 ティナがバレッサの言葉に首を傾げた。
 たしかに、あいつらは基本的に群れで行動する。一匹だけ紛れ込んだのならわかるが、おそらくある程度の数が学園にいる。

 「そうだな……魔物の気配もキレイなほどに分散しているぞ」
 「やっぱり何かがそう仕向けているように思えるっす」

 バレッサが、険しい顔をしつつ顎をさわる。
 なるほど、つまり誰かがこの魔物たちを連れてきて、なにかしら企んでるってことか。

 「でも、怪しい感じの人はいまのとこ見かけてません」
 「わたしも同じくですぅ」

 ティナとレイニが口を揃えた。

 いや……


 「変なやつなら―――そこにいるぞ」

 
 俺は少し離れた木をビシッと指をさした。
 ティナが俺の行動に首を傾げる。レイニは「あ……もしかして」となにかに気付いた様子。まあ、少し待ってくれ……2人とも。
 俺は小石を拾って、再び木に向かって声を張った。

 「いち、にい、3人か。
 ――――――おい、おまえらなにやってるんだ!!」

 と同時に石を投げる。


 『―――いてぇ!!』


 「「なんかしゃべった!?」」

 驚きの声を上げる、ティナとレイニ。まわりの聖騎士たちも何事かと視線を声の方へ向ける。

 『な、なんでわかったんだ!』
 『遮蔽魔道具で完全に見えないはずなのに!?』
 『こら声を出すな、馬鹿もの!』

 ……隠れてるつもりらしい。だが気配がダダ漏れだ。

 「不心得者が、学園祭にまぎれこんでるみたいだな」
 「先輩、お手柄っすよ。たぶんこいつらが、犯人っす」

 バレッサたちも敵を認識したようで各々獲物を構える。


 よし、んじゃま……ひと暴れしますか。