先輩、抱きしめていいですか?

秋の気候から少しずつ寒くなり始めた。
寒いのは苦手だ、なんてたってとにかく寒いから。とにかく寒いのが嫌いだ。

「望海先輩今日も図書委員の仕事ですか?」
「そうだけど」

カウンターの中でパソコンを見ながら貸し出しの確認をする。
寒くなってくると借りる人が増えるんだよな、やっぱ外に出るのが億劫だからかな。
カタカタとキーボードを叩く前で、なぜか軽く俯いて立ってる…

「…泣いてるかと思いました」
「なんで?そんな泣く要素あった?」
「だって、昨日…」

いや、お前の方が泣きそうだけどな。なんでお前がそんな顔してるのかわかんねぇよ。

「昨日何?何もないけど」
「……。」
「つーか今図書当番中なんだよ、用ないなら帰れよ」
「あります!望海先輩と一緒帰る用が!」
「…それって用なのか?」
「はい!!」

そんな約束した覚えはないけど。あと数十分で当番も終わる、下校時刻が近付いてるから。

「あ、駅前のツリー見ました!?」
「見てない」
「えーっ、もったいない!今年は電飾が去年の1.5倍なんですよ!キラッキラです!!」

去年のも知らないから比較されても…駅使わないから行くことないんだよな。

「もうすぐクリスマスですから!!」
「前も言ってたよなそれ、好き過ぎだろクリスマス」
「大好きです!夢があっていいじゃないですか!」

グッとこぶしに力を入れ、パァッと目を輝かせた。あ、なんかうざいスイッチ入ったしまった。

「恋人と過ごすクリスマス、俺の夢です…!」
「へぇー」
「ちょっとは興味持ってもらっていいですか?」

そんなことはさておき、そろそろ時間になる。
先に窓閉めでも行くかな、今日は寒いしどこの窓も開いてないかもしれないけど一応図書室の窓閉めも仕事だし…と思ってカウンターの中の椅子から立ち上がった。

「あっ、もう終わる!?」

時間ギリギリ焦った様子で飛び込んで来た、本を持った小山内先輩が。

「まだ大丈夫です、返却ですか?」
「そう!ごめん、毎回ギリで!」
「いえ、まだ終わってないんで」

いつもより少しだけ緊張した、何がってわけじゃないけどなんとなくあれを見ちゃった翌日だったから…たぶん、俺らが見てたことには気付いてないと思うけど。

「ありがと、助かった」
「いえ…っ」
「残って勉強してたら遅くなちゃって」
「あ、そうですよね!受験ありますもんね!」

高校3年生の小山内先輩はもちろん受験生、だから図書室当番の仕事はなくて委員会だけは参加ってことになってる。それでもよく本を借りに来る小山内先輩は本当に本が好きなんだなって。

「何の話してたの?」
「え?」
「なんか盛り上がってたじゃん」

チラッと見てしまった、そしたらしっかり目が合った。
盛り上がってた…つもりはないけど、図書室からしたらそう聞こえてただけで。

「クリスマス…、もうすぐだなって話をしてしました」

しかも俺的には全然どうでもいい、クリスマスとかちっとも…

「あ、いいね!クリスマスってワクワクするよね~!」

思いのほか小山内先輩が食いついた。小山内先輩もそっち側のひとだった、いや小山内先輩は最初からそっち側の人だけど。

「駅前のツリーすごいキレイだからね!」

あ、それクリスマス好きからしたら定番のトークなんだ。

「そうっすよね!!めっちゃいーですよね!!!」
「あ、見た?いいよね~!あれ今待ち受け!」
「マジっすか!俺もしようかな!?」

そんで、俺抜きで話が盛り上がってた。
この間に窓閉め行こうかな、駅前のクリスマスツリーの話なんて出来ることないし。
ささっとカウンターから抜け出し窓閉めに向かった。戻ってきてもまだ駅前のツリーの話をしててどんだけすごいんだよって不覚にもちょっと気になってしまった。

「俺知ってるよ、サッカー部の光崎くんでしょ?」 「なんで知ってるんですか!?」
「だって目立つじゃん」
「でも俺も知ってましたよ、小山内先輩!」
「なんで?」
「えーーー…知ってます!!!」

……。勢いで押し切るな、小山内先輩困らせるなよ。
にこにこ聞いてくれてるけど、この勢いにも動じずにこにこ…

図書当番がちょうど終わったから流れでそのまま小山内先輩も一緒に下駄箱まで歩いていた。
帰るんだし、そりゃ下駄箱行かないと帰れないけど…これってどこまで一緒なんだろう?小山内先輩の家はどこか知らないけど、これだと一緒に帰るみたいな…

「あ、(けい)!」

なんて、心配はいらなかった。待っていたから、下駄箱の柱の前ちょこんと背にもたれて。
誰かなんて聞かなくてもわかる、あの人だ。

「ごめん、待っててくれたんだ!」
「うん、すぐかと思って」

タタッと彼女の元へ駆けていく、その顔はいつもの小山内先輩だけど少し違って。
そんな風に笑うんだって、思ったり。つい、見入ってしまった。

「じゃあ望海!」

名前を呼ばれてハッとする。

「光崎くんも、またね!」

ただ名前を呼ばれただけなのに、間に合わなかったんじゃないかって。

「…さようならっ、小山内先輩!」

ぐいっとリュックを掴んだ、早く行こうと無理やり引っ張った。

「え!?望海先輩!?」
「帰るぞ!一緒に帰るんだろ!?」
「えっ、そう…え!?」

ぐいぐいと引っ張って、下駄箱を通り過ぎてしまうくらい。
間に合ってたかな?すぐにそうしたつもりだったけど、ちゃんと笑えてたのかな…?
どんな顔、してたんだろう?小山内先輩の前で。

「望海先輩、大丈夫ですか?」

そっと手を離した。背を向けて、なるべく顔を上げて。

「…何が?」

見られないように。

「泣きそうな顔してますよ」

見られないように、一歩先を歩いてたつもりだったのに。上げていた顔も、下を見るばかりで。

「…泣いてなんか、ないし」

やっぱ寒いのは嫌いだな、震えて上手く話せなくなるから。だからこれは寒いのが悪いんだ。
しーんとした廊下は空気が冷たいから、だからそのせいでこんなに震えて…

「望海先輩って小山内先輩のこと好きですよね?」

背中越しに聞こえる声が、グッと刺さる。痛みを伴って、胸に突き刺さる。
でもそんなこと、それはただの…っ

「…好きじゃないよ、俺男だし」

勝手な妄想に過ぎなくて。

「なんでそんな嘘つくんですか」
「嘘じゃない、本当だから」

窓の閉まり切った廊下は声がよく響く、何も遮るものがなくてクリアだ。だからそんな大声出すなよ聞こえるだろ、誰かに聞かれたらどうするんだよ。

「俺はいいと思います、誰を好きだって関係ないと思います」
「だからそんなんじゃないって」
「俺だって望海先輩が好きですし、それは気持ちであって誰にどうこう言われるあれもないですし」
「だから…」

なんでお前がムキになってんだよ、お前こそ関係ないだろ。なんでそんなことお前に言われなきゃいけないんだよ。
イライラする、どうしようもなく。
必死に蓋をしてたものが溢れそうになる。

「別に誰を好きだっていいじゃないですか!」
「好きじゃないから…っ!」

止められなくなる。だから…

「好きじゃない、全然…好きなんかじゃ…」

ない、から。
熱がこもる、こみ上げてくる、こぼれそうになる。
でもそんなのここで見せたくない。
だから必死に繕って…なんてこと俺には出来ないことわかってるけど、平気なフリとか全然上手く出来ないこと、たぶんこいつもわかってて。

「望海先輩!」

でもだから、もうほっといて…っ

「クリスマスプレゼント交換しませんか!?」

……なぜ?
意味がわからず振り返ってしまった。
それはどんな流れでそこにたどり着いたんだよ。眉間にしわ寄っちゃったじゃねーか。

「もうすぐクリスマスですから!」
「……。」

もう慣れたと思ったんだけど、こいつの突拍子もないこんな発言には。
急になんだよ、何の話だよそれ…

「望海先輩とプレゼント交換したいです!」
「それは…してどうする気だよ?」
「どうもこうもないですよ、したいだけなんでプレゼント交換」
「…。」

どうして急にそんな発想になったかわからないけど、こんな時はいつだって本気で。マジでプレゼント交換をしようとしてるのはいい加減わかる。

「…いいけど」
「マジですか~!やった、じゃあ当日!クリスマスに交換しましょうね!!」

でもってさっきの話どっかいったし。
もう襲ってくるどうしようもない感情もなくて、落ち着いてた。こいつの突拍子もない、このおかげで。

「それで小山内先輩にも渡すってどうですか!?」
「はぁ!?何言って…!?」

いやいやいや、それはさすがにめちゃくちゃ過ぎる!
何言い出すんだ、脈絡ってもんがないのかよこいつには!?

「だって恋人じゃなくてもあげることはできるじゃないですか!」

しかもすげーキラッキラな目で。駅前のツリーより輝いてるだろ、見たことないけど。

「俺と望海先輩も恋人ではないですし…」
「…。」
「友達…ですか?え、友達…?…まぁ友達でいいですか、めんどくさいんで!」
「めんどくさいってお前…」

口を大きく開いて笑う、プレゼント交換楽しみですねって。
きっと今、助けられた。また、助けられた。
今度は胸が熱くなる、でもそれは悪くない感覚で。


****


「…って一緒にプレゼント買いに来たら意味なくないか?」

プレゼント交換は了承したけど、別の日には買いに行くことを誘われた。
でもそれ意味ないだろ!交換なんだから何買うかバレたら意味ないだろ!!

「望海先輩はアクセサリーとか着けます?」
「…着けない」
「お揃いにどーっすか!?」
「恋人じゃないんだろ」
「友達でもありえます…!」

この辺じゃわりと大きな雑貨屋、学生のプレゼントと言えばここらしい。って言ってた、こいつが。

「でもやっぱクリスマスっぽくサンタさんのマグカップとかもいいですよね~!」

へぇーいいんだ。ベタじゃん、そのベタなのがいいってこと?クリスマスプレゼントって何がいいかよくわかんないな…

「あ、望海じゃん!」

何気なく目の前にあったマグカップを手に取った。
言ったから、それがいいって。でもひょこっと隣の棚から現れたのは…

「小山内先輩!?」

同じく学校帰りで制服姿だった。ぐるんっとマフラーを巻いて、温かそうな格好で。

「望海も誰かにあげるの?」

さすがに学生のプレゼントと言えばここ過ぎる。クリスマスを意識した内装や音楽、装飾は嫌にでも想像させられるから。

「あ、好きな人だ!」
「違います!」
「また否定した」
「…。」

どうしよう、なんか気まずい。手に持ったサンタのマグカップが気まずい。
あとあいつどこ行った!?さっきまでここにいたのに気付いたらいねぇし!

「じゃあ誰にあげるの?」

誰に…あげる?このサンタのマグカップ、本当に…
ゆっくり棚に戻した、落としたら割れてしまうと思って静かに置いた。
可愛くてクリスマスを感じるマグカップは意外にもずしんと重くて。誰にあげるの?って聞かれたらまだ少し迷うけど、もしそれでもいいなら…

“恋人じゃなくてもあげることはできるじゃないですか!”

「小山内先輩…に、渡してもいいですか?」

一瞬も見られなかった、下しか向けなかった。声だって聞こえてたかもわからないぐらい、だけどこれが俺の精いっぱ…

「え、くれるの!?」

思ったより明るい、というかわっと驚くような声が返って来た。

「いいの!?」

…、思ったより反応よさそう?
目をキラッとさせて悪い感じはしてなさそうだような、コレ。

「……はい」

こくんと頷いた、小山内先輩の目を見て。そしたらにこって笑って…

「じゃあ俺も望海にあげる!」

……え?今なんて?
思わず目をパチクリする、もう1回聞き返したくなるそれは。
だって今望海にあげるって…、それは俺に…??

「くれるんですか!!?」
「うん、だってプレゼント交換でしょ?しようよ、交換」
「え、本当に…!?」

まさか小山内先輩からもらえるようになるなんて思ってなくて、それは一切想定してなかった。こんな展開になるとか…

「じゃあクリスマス当日、楽しみにしといて!」

こんな展開あるとは思わなかった。
絶対ないと思ってた、ないと思ってたから聞いてみたのにこんな展開あるとは思わなかった。
だって、これは、まさか…

小山内先輩からクリスマスプレゼントがもらえるーーー…っ!


****


「望海先輩ごきげんですね」
「うわっ」
「そんな驚きますか?」
「急に来たから!トイレの待ち伏せするなよ!?」
「待ち伏せしてたわけじゃないですよ、一緒に昼食べようと思って迎えに来ました!」
「……。」

昼休み、誘われることが増えた。
あと、たまには誘いに行ったりもしてる。でも生まれたての小鹿みたいにビクビクしてたって言われてから行ってないけど、むかつくから。

「弁当持ってくるから待ってて」

タタタッと走って教室から弁当と水筒を取りに行ってすぐ戻った。もう12月半ば、外で食べるのは寒過ぎる…どこがいいかなって探してどっか空いてる教室で食べることにした。
いや、寒いだろ!ここも十分寒いだろ!暖房ないし!!

「そうだ、先輩!今なんか欲しいものないですか?」
「それプレゼント交換のだろ、聞くのかよ」

でも仕方ないので、ガランと広い教室…の真ん中にわざわざ座ったあいつの前に座る。

「考えたんですけどー、望海先輩は何もらったらうれしいのかなって。やっぱあげるからには喜んでほしいですもん、それには多少な調査が必要かと…」

ビリッと袋を破り豪快にカレーパンにかぶりつく、ひとくちで半分くらいなくなった。

「だからぁ…クリスマスプレゼント何がいいですか?」

途中でゴクンと飲み込んだ、噛むスピードも飲み込むスピードも早くてもうふたくちめをかじってる。やっと広げた弁当に、箸を取り出してまだひとくちも食べてないのに。

「なんかありますか?」
「……。」

手を合わせて、小さくご飯を箸の上に乗せた。ぱくっと口の中に入れて、もぐもぐと口を動かして。

「…わかんない、もらったことないし」

ピンと来ない、クリスマスに何をもらうとか何をあげるとか思いつかない。サンタがいいのかって思ったけど、サンタの何がいいとか…

「あっ!親にはあるよ!?あるからな!?」
「何も言ってません」
「今そんな顔してただろ!」

可哀そうな子見るみたいな目で見られたから。
でもそれくらいは俺でもあるし!それは子供の頃からあるし!だけど…

「それ以外にはないから…もらったこと、…ない」

恋人なんかいたことないし、友達だって…なくて。
だから浮かんでこない、欲しいものが何も浮かんでこない。答え方がわからな…

「望海先輩の初めて…!」

ここ最近で1番いい顔してた。キラキラ具合で言えばたぶん駅前のツリー超えたと思う、知らんけど。

「てことはあれっすよね!?望海先輩からもらうプレゼントは望海先輩の初めてのプレゼントってことですよね!?」
「……は?」
「えっ、マジっすか!それはやばいっすね!!」
「……。」

…それも前に言ってな、そーいえば。初めてのなんとかって、そんな初めてがいいのか俺にはよくわかんないけど。
だってカラオケとかおにぎりとか、そんな…

ーふっ

と、声が漏れる。息が抜けてくように、こいつ見てたら自然と笑いたくなって。

「本当何でもいいんだな」

頬が緩むんだよ、お前といると。
それは案外悪くなくて嫌いじゃない、言わないけどこいつには絶対言わないけど。

「違います望海先輩だからいいんです!」
「へぇー」


****


プレゼントをもらったこともなければ、あげたこともない。
プレゼントっていつ渡せばいいんだ…?

すっかり冬本番になった今日はクリスマス…前夜、つまりはクリスマスイブってやつだ。
やっぱり渡すのは明日なのかな?サンタも24日の夜に来て25日にプレゼントが置いてあるんだから本番は明日、だよな。

「……。」

やばい、何を真剣に考えこんでんだろって恥ずかしくなる。なんか浮かれてるみたいじゃん、これじゃあ…
そんなこと考えてないで仕事しよ、本を棚に戻さないと。
山積みになった数冊の本を抱えて元あった場所に戻していく、今日はまだすることあるんだ早く終わらせないと…

ーどんっ

「…っ!」

持っていた本がバサバサバサと床に落ちていく。本の重さに気を取られて前を見てなかった、本棚と本棚の間から人が出て来たことに気付かなくて。

「悪りぃ!」

急に現れた男がぺこっと頭を下げる、軽く手を添えながら。だけどそんなの見ずにすぐにしゃがみ込んだ、落ちた本を拾おうと思って。

「あ、なんだお前か」

散らばってしまった本に手を伸ばして、急いで本を拾いたくてかき集める。本しか見ていなくて、本だけを見て、早く拾わなきゃって。

「何、知り合い?」
「あぁ、同じ図書委員のやつ」

もう1人いたっぽい、でもそんなことどうでもいい。
そんなこと気にしていられない、早くここから立ち去りたかったから。

「ほら、前話した…」

早くここから、離れないと。
早く本を拾ってここから…っ

「小山内先輩狙いで入って来たんじゃないかってやつ」

早く…、離れたかったのに。

「は?マジで?」
「言ったじゃん、ほらあれだよ」

手が、動かなくなる。伸ばした手に力が入らなくなる。
その続きを聞く前に離れるつもりだったのに。

「え、マジ!?そうゆうこと!?」
「なんか怪しいもん」
「え、やばくね?」
「いっつも1人でこそこそしてるし、結構噂されてる」
「こっわ〜!」

ゲラゲラと笑いながら、落ちた本に見向きもしないで歩き出した。俺の横をすり抜けて、早くこの場から去りたかった俺の方が残された。
でも拾わなきゃ、落とした本をここままにしておくわけにはいかないから早く拾わなきゃってもう一度手を伸ばして…

「…っ」

でも、動けなくて。
伸ばした手が震えそうになるから、誰かに見られてたらどうしようって怖くなるから。
前が見られなくて、顔が上げられなくて、このまま動けなくて…本を拾いたいのに拾えないまま。
胸がきゅっと掴まれて、瞳の奥が熱くなる。
どうして俺はこうなんだろう?自分で自分が嫌いだ、なんで俺は…

「大丈夫?」

スッと手が伸びて来た、白くて細い指先が落ちていた本を掴んだ。その指先に目を奪われる。

「あんなの気にしちゃダメだよ」

可愛らしい声だった、だけどその少し高くて落ち着いた声を知っていると思った。
ゆっくり顔を上げ声のする方を見ると、にこっと微笑み返された。
小山内先輩の…あの人だ、もう顔は覚えてた。

「怪我してない?大丈夫だった?」
「あ、はい…怪我は…ないです」
「じゃあよかった、早く拾っちゃおう私も手伝うよ」

床に広がった本を集めて重ねていく、その白くて細い指先は少し遠くまで飛んでいった本まで拾ってくれた。

「これって本棚に戻せばいんだよね?」
「あっ、はい…!でもそれはやるんで大丈夫ですっ」
「いいよいいよ、手伝うよ」
「でもっ」
「私、1年の時図書委員だったから!」

数冊重なった本を持って立ち上がる、重いはずなのに軽々としてにこりと笑った姿はどこか重なる気がして。

「本の位置には詳しいよ」

たったこれだけだったのに、わかってしまった。
少し会話をしただけなのに伝わって来てしまった。
すぅーっと入り込んできたから、みずみずしい空気に包み込まれるように。
少しだけ軽くなったから、動けなかった身体が手を伸ばせば本に届いて一気に変わる。

そっか、そうだ。
この人が小山内先輩の彼女なんだって、知った気がした。


****


「望海せーんぱいっ、待ってました!今日遅かったですね、一緒に帰り…」

図書委員の仕事を終えて下駄箱に行くといつものように待っていた。ぶんぶんと大きく手を振って、相変わらずどこにいても目立つ奴だ。

「先輩?どうかしましたか?」

パチパチと電気が切られていく校舎は当番の仕事が終わるころにはほとんど消えていて、少しでも遅くなれば明りのある所は下駄箱(ここ)しかない。

「望海先輩…!?どうしたんですか!」

大きな声が駆け寄ってくる、心配そうな表情で。
そんな顔見たくなかったんだけど、だって見てしまったら…

「望海先輩何があったんですか!?なんで…っ」

肩を掴まれた、大きくて力の強い手は勢いよくガシッと掴んで…少し痛かった。痛かった、痛くて、立ってるのも必死だった。
ズキッと行き場のない痛みが胸が訴えて来る。

「…泣いてるんですか?」

その声もその顔も今は見たくない、見られたくない。
また自分を嫌いになるような気がして。

「望海先輩…?」

だけど痛くて胸が押し潰される。息をするたび苦しくて、どんどん視界が悪くなっていくから。
ぼやっとかすんだ瞳では何も見えない、1度でも目を閉じたらこぼれてしまいそうになる。そんな姿見せたくなかったんだけど、だけど…必死に耐えても敵わなくて、どれだけ我慢しても伝っていくんだ、冷たい涙が。

「…些細なことだったんだよ」

始まりはほんの小さなことだった。たった一言だった。

「いつも1人でいたから…、変な噂立てれれることも多くて、陰口言われるのも慣れっこだったから…」

“いっつも1人でこそこそしてるし、結構噂されてる”
あんなの何度も言われたよ、そのたび聞こえないフリをして消えるんだ。その場から離れて、なるべく人の声が聞こえないところを探して…
だけど違ったから、小山内先輩は。そんな声がする傍らで話しかけてくれた、小山内先輩だけが話しかけてくれた。

「小山内先輩が…っ、そんなこと言う奴のことなんて聞かなくていいって…聞きたい声だけ聞けばいいんだよって、教えてくれて…っ」

ポロポロ冷たい涙が流れていく、目を閉じなくても何をしなくても涙は流れ続けて止められない。大粒の涙は重くて苦いから。
本当、どうしようもないな俺は。

「だから図書委員会入ったんだ、小山内先輩ともっと話したいなって思って…小山内先輩にもっと会いたいなって思って…っ」

やましい気持ちで、図書委員になった。
本当は本なんか読んだことないのに、それだけの気持ちで。
最低だよ、利用してたんだから。小山内先輩が好きな本のことを利用してた。
だからこんな思い叶わなくて当然だ。

「好きだったよ、小山内先輩のこと」

お前の言った通りだよ、ずっとずっと好きだった。

「望海先輩…」

小山内先輩と話せると嬉しくて、小山内先輩が笑うと心の奥がキュッとなって、小山内先輩が隣にいるだけで…
違ったんだよ、特別だったんだよ。小山内先輩だけは特別だったんだよ。

「でもやっぱダメじゃん?」

だけど、そんなこと言えるわけなくて。

「俺男なのに…っ、どうしたらいいかわかんないじゃんこんなの…っ」

苦しい、会えたら嬉しいのにその分重くなるんだ。どうしたって叶わない想いに息がしにくくなる。
叶わなくてあたり前なのに、だから泣くことでもないのに。

「ダメなことなんかないですよ!そんなこと全然っ」
「あるよ!めちゃくちゃあるよ!」
「ないです、そんなのっ」
「あるんだよ、もうわかってるんだよ…っ」

はぁはぁと息をして、鼻をすする。拭う気にもなれない涙が鬱陶しくて嫌だ、俯いたまま前だって見れないのに。
現実を思い知るから、知ってしまったから。

「小山内先輩、彼女いるんだから…!」

あれもこれもすべては小山内先輩の優しさだった。
小山内先輩は優しいから、あの笑顔はみんなに優しいんだ。
そんなこと、わかってたはずなのに。

初めて小山内先輩と話した日は今でも覚えてる。
心無い噂に俯く俺をのぞき込むようにして、にこっと微笑んだ。
『あんなの気にしなくていいよ』
それが始まりだった。
始まりで終わりだったんだよ、あの言葉がずっとこだまする胸の奥でずっと。

忘れたくても忘れられない、小山内先輩を好きになったあの日。

もう一度聞くことになるなんて、俺にそんなことを言う人が他にもいるなんて。だから、駆け巡るように心臓に痛みが走った。
涙も出ないくらいに、スッと心に入って来たから。

お似合いの2人だなぁ、って思ってしまった。

思っちゃったんだよ。
きっと俺はそんな風になれない、俺にはそんなこと出来ない。
だからこんなことで泣いてる場合じゃない。

「望海先輩…」

視界は歪んでいくばっかりで、必死に息をしないと苦しみに飲まれそうなくらいもうめちゃくちゃだった。めちゃくちゃで…息を吸ったらもう止められなくて、息を吐いた時には言い放ってた。

「だからお前…っ」

止められない、どうしたらいいかわからない。

「好きとか簡単に言うなよ!なんでそんなこと言えるんだよ!?」

荒がる声は下駄箱中に響き渡って、ぶつけるみたいに叫んだ。イライラして抑えきれなくて。

「普通言えないだろ!?言ったらダメに決まってんだろ!?わかるだろ、それくらい…っ」

こんなこと言いたいわけじゃないのに、どうして止められないんだろう。
また傷付けるってわかってる、もう傷付けたくないのに繰り返すんだ。何度も何度も、突き放して…

「もっと自分のこと考えろよ!!!」

ただの八つ当たりだ、最悪だよ。
いい加減飽き飽きだろ?
なんで優しくしてくれた人を大事に出来ないんだろう?
自分で自分が嫌いだ、こんな奴誰だって嫌だろ。
わかってるんだよ…
やっぱどこかおかしいんだ、俺って。

ー!?

急に視界が真っ暗になった。涙でずっとぼやけてたけど、急に本当に何も見えなくなった。
ぎゅっと抱きしめられたから、がっちりした腕の中にすぽっと…

「何してんだお前!?」
「嫌です」
「おいっ、何のつもりだよ!?」
「離しません」
「だからこーゆうことを言ってんだよ!何考えて…っ」

強い力はさらにグッと包み込む、体だって大きいんだ俺の力じゃ到底敵わない。振りほどきたくて暴れても全然敵わない。
そんな俺をグッと抱き寄せる。

「望海先輩が泣いてたんで…!」
「…っ」

そんなこと、どうして言えるのかわからない。
やっぱり想像を超えてくるんだ。
耳元で聞こえた声にハッと視界がよくなるみたいだった。

「望海先輩、俺は何があっても望海先輩が好きです」

俺より大きい身体は俺を包み込んで、息が耳に当たる。

「たとえ望海先輩が世界中を敵に回しても、世界中に嫌われても、世界から追放されても、俺は望海先輩のことが好きです」

なんだよそれ、どんな妄想話なんだよ。
めちゃくちゃ過ぎるだろ、俺が何したって話だよ。

「ずっとずっと望海先輩の味方です」

そんな奴ほっといていいだろ、忘れていいだろ、突き放したって…いいのに。
しないんだ、そうゆう奴なんだ。
わかってるんだよ、俺だっていい加減わかってる。

抱きしめられた胸の中はあったかくて、体温が伝わってくる。冷たいと思っていた涙が急に熱を帯び始めて、こみ上げてくる何かに今度は違う涙が止まらなくなる。

「それじゃダメですか?」

あったかい涙がポロポロこぼれ落ちて、さっきより全然息がしやすくなった。あんなに苦しかったのに、痛くてたまらなかったのに、今はもう自分の足で立ってさえいられる。

「望海先輩には笑っててほしいです」

胸の中で泣きじゃくった。
声を殺して顔を埋めて、しがみつくみたいに腕を回して。
なんでそんな頼りがいのある胸してんだよってちょっとむかついた、落ち着くみたいでむかつくんだよ…
いつだってそばにいてくれるんだ、こんな俺のそばに。

知らなかったんだ、ずっと1人だったから。
いつも閉じ込めてきた思いを吐き出す場所なんかなくて、こんな場所があるなんて知らなかった。

知らなかったよ、大晴と出会うまでは。

素直になるのは少し勇気がいるけど、それを教えてくれたのは大晴だよ。
見捨てないでぶつかってきてくれるのは大晴だけだよ。
よく付き合ってくれてるよ、なんでそこまでして俺のそばにいるのか意味がわかんねぇよ。

でも…ありがとう、一緒にいてくれて。
大晴がいてくれてよかった。
なんて、素直に言えたらいいんだけど。


****


「……。」

クリスマス当日、約束はしたんだからそれは守らないとそれはさすがにと思ってプレゼントを持って来たはいいけど…
なんかわからん汗が体中から吹き出て来るんだけど、何これ!?何なの!?
バックンバックン心臓が飛び出そうなくらいやばいし。

それともう1つ、昨日のこと。
思い出すとわーっと叫びたくなるぐらい羞恥心に襲われる、あいつの前であんな醜態さらしたことが。
なんであんなこと言っちゃったんだろ、どうしてあんなこと、あいつの前で泣い…
あぁーっ!ダメだ、思い出したら動悸が…!
記憶から全部を消したい、恥ずかしすぎるだろっ!!

「望海先輩っ」
「うわぁぁっ」
「毎回思いますけど、望海先輩ってこんな時だけリアクションでかいっすよね」
「お前が急に現れるからだよ!」

考えてる時に、よりによって考えてる時に現れるから、やめてほしい本当にやめてほしい。

「そうですか?」
「そう!!」

もう少し時間ずらして来てほしい。

「これから渡しに行くんですか?」
「あ、あぁ…」

学生のプレゼントと言えばここで買った、可愛くクリスマス仕様にラッピングしてもらった紙袋を持って図書室に行こうと思ってた。小山内先輩と会うならそこかなって。
でも向かう途中の廊下で待っていたから、憂いを含んだ眼差しで俺を見ながら。

「望海先輩、告白しないんですか?」

廊下の空気が冷たい。12月も終わりなんだ、あたりまえだけど。
ふぅっと息を吐いて、少しだけ視線を落とした。

「しないよ、そんな勇気ないし」
「…いいんですか?」
「いいよ」

最初からそんなこと考えてなかったし、どう考えても無理だし。だったら今更する必要もなくて。

「でも、それじゃあ…」

それなのに、そんな危うそうな声出すなよ。

「つーかなんでお前がしてほしいわけ?俺のことが好きなんだろーが!」
「好きですけど、それとこれは別じゃないですか」
「何が別なんだよ。万が一、ないけど!絶対ないけど!俺と小山内先輩が付き合っちゃっても言いわけ?」
「いいですよ!」

は?そんな即答で…
さっきまでうつろうつろしていた瞳に力が入って、シャキッと背筋まで伸びた。

「望海先輩の気持ちが1番大事なんで!」

声まで張って、そんな宣言するみたいに堂々と言わなくたって。

「お前…本当恥ずかしい奴だな」
「恥ずかしくないんで、本気なんで」
「…へぇ」

キリッとした瞳でこっちを見てくるから、それに負けて逸らしたくなる。やっぱり俺にはそんなこと言えないから、そんな勇気ないから。

「俺はこのままでいいだよ、この関係を壊したくない」

でもきっとそれだってカタチの1つじゃん?
って、今ならそう思えて。
そう思えたから進める気がするんだよ。

「じゃあ俺図書室行くけど」
「わかりました、俺は…」
「待ってて!」
「え?」

駆け出して、早く渡しに行くんだ。
それで、戻ってくるから。

「一緒に帰ろう!」

少し変わった自分になって。
その時は昨日よりもっと素直になれる、と思うから。

「はい!待ってますっ!!!」


****


バクバクと鳴る心臓を抑えて、ゆっくり深呼吸をしたら図書室のドアを開ける。
その先は少しだけ無理をして笑った。いつもより力が入っちゃってたかもしれないけど、クリスマスだしね。クリスマスはワクワクするって言ってたもんね。

「小山内先輩!」
「あ、望海!待ってたよ」

微笑んでくれる小山内先輩の前に立って見上げる、それは寂しくも思うけど。でも会えなくわけじゃないし、図書委員だって続くんだし。

「あの、これ…クリスマスプレゼントです」
「俺も、望海に」

静かな図書室で交換した。
今日はクリスマスだ、だからこんな日に来る人はいなくて誰もいなかった。2人だけの空間で、こっそり交換をした。

「望海からって何だろ~」
「あの、何がいいか全然わからなくて…」
「あ、しおりだ!サンタの」

いつも本を読んでるから…ってすっごいベタな理由で、それとクリスマスと言えばサンタなのかなって。
一生懸命考えてみたけど、俺のプレゼントセンスはそんなもんでもう少し気の利いたものをあげられたらよかったのかもしれないけど。

「ありがとう、使うね」

しおりを手に、笑ってくれたからまぁいいか。
にこって微笑む小山内先輩がいてくれたから。俺に向かって笑ってくれる小山内先輩がいたから…もう十分だ。それだけで十分だよ。
だからもう大丈夫、これ以上は大丈夫。

「あ、小山内先輩このあと用事ありますよね!?」

ないわけがない、何度も言うけど今日はクリスマスなんだから。

「もう行ってください!」
「え、もう?」
「すみません、プレゼント交換するためにわざわざ呼んじゃって」
「それは全然いいんだけど…」

あとは一歩進だけ、終わる勇気を持つだけなんだ。

「俺も楽しみだったし、望海とプレゼント交換するの」

胸がキュッと熱くなる。瞳の奥がじわっと痛みを感じる。下を向きたくなって、でも無理にでも笑わなきゃって。
だから小山内先輩の背中を押して、ドアの方へ。
もう終わりなんだ、これで終わり…終わらせるんだって決めたのにどうして苦しくなるんだろう。

あ、そっか初めてだったから。
小山内先輩が初めてだった、誰かを好きになる切なさを教えてくれたのは。

「小山内先輩…っ」

図書室から出て行こうとする背中に呼びかける、少しだけ声が揺れた。でも伝えたくて、最後はきちんと声にしたくて。

「ありがとうございました…っ!」

すべての思いをここに置いていくから、もう振り返らないから、だから…

「何それ、急に終わりみたいじゃん」

振り返った小山内先輩がふふっと笑う。

「また会うだろ、図書室(ここ)で」

小山内先輩の声が胸にトクンと響いて泣きそうになった、でも泣きたくなくて必死に堪えた。

そうだった、変わらないんだ。
変えたくなくて終わりにするんだから、何も悲しむことなんてない。
明日も明後日も、変わらないんだずっと。
小山内先輩との関係は。

「はい!」

ちゃんと笑って返せた。
ばいばいって手を振る小山内先輩に手を振り返せた、上手く出来たじゃんって自分を少しだけ褒めたい。
少し胸は痛むけど、まだクリスマスは終わってないから。

そう、まだクリスマスは終わってない。

「望海先輩…」

小山内先輩が出て行った図書室にゆっくーりのぞき込むように顔を出した。恐る恐る様子を伺うみたいに、俺の顔を見てハッと口を開けて。

「すみません!やっぱ来ちゃいました!待ってろって言われたのに待ってられなくて、居ても立っても居られなくて…っ」
「お前本当俺のこと好き過ぎるだろ」
「好きです!大好きです!!」

本当にこいつは…一貫して変わらないんだな、会った時からずっと。

「…望海先輩?」

変わらなくて、羨ましくて、悔しい。
どうしたらそんな風になれるのか、やっぱわからないよ。
俺もそんな風になれたらよかったのに。

「…もっと早く告白してたらさぁ、なんか変わってたのかな?」

もう泣かないって決めたのに、大晴の顔を見たら堪えてた涙が一気に溢れて出した。
もう泣きたくないって、ここでは泣きたくないって…

「何も変わらないよな、たぶん俺じゃ無理だと思うもん」

大晴の前で、もう泣きたくなかったのに。

「望海先輩…」

でも思えばこいつの前では恥ずかしいことばっかりで、今更そんなこと思うことなんかないのかもしれない。
だってそれでもずっと変わらないでいてくれたんだから、今もずっと俺の前にいてくれるんだから。
そんな奴、他にいないよ。

「でもよかった、俺じゃプレゼント交換するってことも浮かばなかったし」
「……。」

追いつかない涙がボタボタとこぼれて、本当にカッコ悪くて仕方ない。

「大晴のおかげだよ」
「…っ」

下を向いた、我慢が出来なくて。顔を隠すように右手で瞳を覆って、溢れ出る涙にひくひくと嗚咽を漏らして。
もう言葉が出てこない、息をするたび体が揺れて視界はぐちゃぐちゃになっていく。

でも、これで最後だから。
本当に最後だから、小山内先輩を想って泣くのは、だから…っ

「先輩、抱きしめていいですか?」

古びた本の匂いの中、本を読んでる小山内先輩を見てるのが好きだった。
いつも返却日には必ず間に合わせてやって来るマジメなところが好きだった。
図書室に入ってくる第一声が好きだった。
ずっと蓋をしてきた想いが溢れ出して、こんなにもまだ残っていたのかと自分でもびっくりするくらい。

あの日からずっと好きでした、小山内先輩のことが。

だけどいつか思える、この日の涙も無駄じゃなかったって。
抱きしめられた胸があったかいから。
背中に回した腕も、耳にかかる吐息も、全部全部あったかくて心地いい。
ずっとここにいたいくらいだよ。

抱きしめられた胸の中にずっと。


****


静けさと冷たさが入り混じった図書室は、日が暮れるとより一層寒くなる。

「望海先輩そろそろ帰りますか!」

ハッとして壁にかかった時計を見ればもうすぐ下校時間になるとこだった。
やばい、泣き過ぎた!!!
めちゃくちゃ時間過ぎて…待って、これクリスマス終わるじゃねーか!

「あ、望海先輩!これは俺からです、クリスマスプレゼント!」

はいっと渡された、あのお店の…じゃない!これは知らない包装紙だ!

「どこのやつだよ!?学生はみんなあそこで買うって…っ」
「だって同じ店で買ったら被るかもしれないじゃないですか」
「そ、そうかもだけど…!」

他に選択肢ってあったんだ、そう言われたからあたかもそれが普通みたいでそこで買ってしまった…本当にあれだ、センスもなければ応用力もない。

「開けてみてください」

ちょっと不服だったけど、とりあえず開けてみる。
あのお店より高級そうなラッピングがなんか腹立つけど…

「何?これ」
「ヨガするサンタのオブジェです!」
「ヨガするサンタのオブジェ…」

あれだな、売ってるものはさほど変わらなそうだ。
というかこれの使い方ってなんだ?ヨガするサンタのオブジェってどこで使うんだ??
俺には理解しがたいがそれは置いといて…、俺も用意したものをスクールバッグの中から取り出した。

「プレゼント、どうぞ」

こっ恥ずかしい、なぜかドキドキしてた。
なんでだ?小山内先輩に渡すよりドキドキしてる気がする、鼓動が早い気がする。なんか落ち着かない。

「ありがとうございまぁーす!」

しゅるるるっとリボンがほどかれて、ちょこんっと姿を現した。

「サンタさんのマグカップ…!」

最初に手に持ったあれ、一緒に行った時見たあのマグカップだ。

「…ベタなのがいいって言ったから」

それを鵜吞みにして、そのまま買った。
だってそれがいいみたいなこと言ってたし、それがいいのかなって…いや、あれは例えでもっと考えるべきだったかも。もっと他に…っ

「めっちゃくちゃうれしいです!!!!!」
「……そう?ならいいけど」
「はい!!!」

いいんだ、それで。
なんかすごい嬉しそうだから…そんなので、そんなに喜んでくれるのか。それは、まぁ嬉しい…けど。
ぽわって胸がこそばゆくなった、嬉しいって思ったら。

「望海先輩からのプレゼント超うれしいです!」

本当すごい奴だなって思う。全身全霊で感情を表して、恥ずかしげもなく真っ直ぐぶつかってきて。
俺とは全然違って。

「あ、でも…!いや、それはまぁ…いいかあれですよね!?」
「なんだよ」
「なんでもないです!」
「言えよ、気になるだろ」
「だって…」

だからドキドキするのかな?次はどんな反応するんだろうって、見てみたくなるから。

「望海先輩の初めてのプレゼントは叶わなかったんで」

……。
しょんぼりして、でっかい体が小さくなる。きゅっと包み込むようにサンタのマグカップを持って。

「そーいえばそんなこと言ってたな」
「いや、わかってます!わかってますから!!そうですよねっ、望海先輩からしたら初めてのプレゼントは小山内先輩にあげたいですよね!?」
「別に、そうゆうわけじゃ…」

元々俺はそんなにこだわってないし。こいつが勝手に言い出しただけで初めてとか、どっちでもいいんだけど。
そんなシュンとされる方があれなんだけど。

「なぁ、今からって暇?もう真っ暗だけっ」
「暇です!どっか行きますか!?」
「…うん」

言い切る前に察されたから言っといて圧に負けた。怯んじゃったじゃないか、こっちが。

「どこ行きますか!」

なんだよ、もう目見開いてキラキラさせてんじゃん。しょんぼりする時間なんてほとんどないじゃん。

でも、そっちのが似合うよ。

「駅前のツリー、行こうよ」

見たくなった、一緒に。

「いーですね!行きましょう!超キレイですやばいですよっ!!」
「そんなハードルあげて大丈夫なのか?」
「全然いいです、最悪俺がなんとかします!」
「何する気だよ」

もらったヨガするサンタのオブジェをスクールバッグの中に入れて図書室を出ようとドアの方に向かう。

「望海先輩が期待よりつまんなかったなって思ったら俺が盛り上げるんで!」
「…うん、じゃあそれで」
「任せてください!」
「絶対そうしてよね」

ドアノブに手をかけてぐいっとドアを押して、一歩踏み出したら少しだけ見上げて。

「クリスマス、誰かと過ごすの初めてだから」

目を合わせるんだ、どんな反応するのかなって思いながら。
それは少しだけドキドキして、自然と笑みがこぼれて。

「望海先輩…っ」

ふふって声が溢れちゃうみたいに。

「わかりました!絶対絶対最高のクリスマスにします!!!」
「え、ツリー見に行くだけだよ?」
「オプション付けましょう!お得です!」
「いいけど、別に…」

なんでも、楽しいと思うから。笑っていられると思うんだ。

「カラオケ、映画、ボウリング、ゲーセン…」

腕を組んで、右手をあごの下に置いてうーんと唸ってる。下駄箱に向かう廊下を歩きながらぶつぶつ言って。

「迷いますね、バッティングセンターとかもありますけどもっとクリスマスっぽい方がいいか…」

そんなに悩むのか、俺は別に何でもいんだけどな。
どこに行きたいとか、何をしたいとか、何を食べたいとか、そうゆうの全部…

「望海先輩何が好きですか?」

一緒にいたらワクワクするから。

「俺、大晴といるの好きだよ」

だから、なんでもどこへでも。大晴が隣にいてくれるなら。

「…え!?好き!?今好きって言いました…!?」
「あ、そうゆう好きじゃないから」
「じゃあどーゆう好きっすか!!?」

初めて誰かを好きになって知ったんだ、こんなにも苦しくて胸が痛むんだって。
だから今度は教えてよ、誰かを好きになって心がぽわってなっちゃうようなドキドキを。

「あと全然大晴って呼んでくれませんよね!?」
「呼んでるじゃん」
「もっと呼んでくださいよ!!」

初めての恋を、教えてよ。