「いよいよだな。ステラ」
 「ええ、アビロス。共に頑張りましょうね」

 俺とステラは学園への道を2人で歩いていた。

 ついに入学の日が来たのである。

 学園、ロイヤルブレイブアカデミー 通称ロブアカである。
 このロブアカへの通学路も毎日通うことになろう。

 ちなみに俺はすでに男子寮に入っている。
 ステラは女子寮だ。

 寮を出たらステラがいた。
 「た、た、た、たまたま出てくる時間帯がかぶりましたねっ!」とか言ってた。
 まあ、女子寮は男子寮の近くだ。全然あり得る話だろう。玄関まで見送ってくれたララが、なぜかニヤニヤしていたが。

 「フフ、アビロスの制服。カッコいいですよ」
 「おお、ありがとうな。ステラもすっごく似合っているぞ」

 男子の制服は基本ブレザーに黒パンツだ。
 なんだか高校時代を思い出す。というか今のアビロスは高校生の年齢だけどな。

 女子はブレザーにスカートだ。けっこう短めのスカート。
 これはゲーム世界のデザインだからしょうがない。

 あと、ステラはブレザー、スカートともになんと純白である。これは他の生徒とは違う。
 教会が聖女としての純白さは、学園であっても失ってはいけない。とかいうよくわからない設定だ。

 もうその超絶美少女が清楚な感じと相反して、短い純白のスカートからチラチラでてくる太ももが―――

 ま、まあメインヒロインだからな。他のモブ生徒と同じな訳がない。

 それはわかっているのだが―――


 いや、これヤバいな……可愛すぎるぞ。


 もう、周囲の目がえらいことになっている。
 通学生徒たちの注目の的だ。

 学園についてないのに、もう目立っているじゃないか。しかしステラには絡むと決めたんだから、やむを得ないか。

 「あ、アビロス。学園に入る前にちょっと確認しておきたいことがあります」
 「ん? どうしたステラ?」

 ステラが改まって、小声で話しかけてきた。

 「そ、その【聖女の口づけ】ですけど……」
 「お、おう……」
 「あまり学園内ではその話題は出さないでください。教会からも言われていますし……」

 なんだかモジモジし始めたぞ、聖女さま。

 「その私も……あの……ちょっと」

 なるほど、【聖女の口づけ】はこの世界でも広く知られているイベントだ。
 与えられた者は、なにかしらの祝福を受けるとされている。
 原作ではゲーム主人公が、【聖女の口づけ】によりその力を解放して、大幅レベルアップを果たす。

 教会にとってはかなり神聖な行為なのだろう。
 だから、いきなり俺という微妙な貴族モブキャラが【聖女の口づけ】受けてました~~てへ。とかはあまり喧伝してほしくないということか。

 正直なところ、【聖女の口づけ】の対象者が1人だけかどうかはわからないしな。

 ……いや。


 できれば俺一人にして欲しいけど。


 それはステラの意思によるだろうから強制はできない。

 「ああ、わかった。もとより言う気もないぞ。チューの件は安心しろ」
 「ちょ! アビロス! チューとか言い方!」

 え? チューじゃなきゃなんだ? キス? 接吻? 口吸い?

 「と、ところでアビロスはその、他の方とも……それ……したことがあるんでしょうか?」

 「え? 俺が?………え~~と、無いな」

 以前ララが俺の口から毒を吸い出したことがあったが、あれはノーカンだろう。

 「ちょっと! 随分と間がありましたけど! なにか隠しているんじゃないでしょうね! 私は初めてだったんですからねっ!」

 いや、急に音量でかいよ。聖女さま。
 内緒なんでしょ。

 その事態にハッとして、うぅ……と俯いてしまうステラ。顔が赤い。

 「ハハッ、安心しろステラ。俺たちは胸をはって学園に行けばいいんだ。変に考えすぎるなよ。もっと楽に楽しもうぜ」
 「ええ、そうですね。アビロス。なんだかあなたの言葉だと安心します」

 顔を上げたステラが俺の方に視線を向けた。

 「すいません。なんだか緊張していたみたいです。もう大丈夫!」

 普段の笑顔に戻る聖女様。
 そこへ周りのガヤが聞こえてくる。

 「あ、あれ噂のアビロス君じゃない?」
 「ああ~~パンツ大好き貴族だ~~学園中のパンツ狙っているらしいわよ」
 「そ、そうなんだ……でもちょっとカッコいい……試験会場でみんなを助けたんだよね、あたしアビロス君なら狙われてもいいかも」

 おい、パンツ大好き貴族ってなんだ……

 貶されているのか? 褒められているのか? よくわからん。

 「アビロス! あまり周りのガヤを気にしないでください!」
 「あ……はい」

 さっきの笑顔はどこいった、ステラ?

 「どうしてもパンツが我慢できない場合は、私に相談してください! いいですね!」
 「お……おう?」

 いや、俺パンツの禁断症状とかないんだけどな。
 もうスカートめくりキャラが定着してしまったのだろうか。まだ初日だというのに。
 あと、相談ってなんだ? 

 にしても、ステラ。ひっきりなしに挨拶されてんな。

 「聖女様、おはようございます!」
 「まあ、おはようございます。あと学園ではステラとお呼びくださいね」
 「は……はい! 聖女様!」

 満面の笑みで去って行くモブ生徒たち。
 早くもステラ人気は高まりつつある。本日何回目だろうか?このやり取り。

 しかしさっきの奴はどこかでみた顔だな。とんがり頭の……

 あ! 門番だよ!

 思い出した! たしか入学できないモブキャラが門番して。その門番の実家に行ってイベントが起こる。みたいなプチサイドストーリーがあったぞ!


 ―――んん? いや待て。


 あいつはたしか制服を着ていたぞ。

 てことは誰が門番しているんだ? ま、まあ……他のモブがやっているんだろうな。
 そうだ、そうに違いない。

 そして、俺たちの前に巨大な建造物が見えてくる。
 ロイヤルブレイブアカデミーだ。

 「おお、デカいなぁ」
 「ええ、アビロス。そこで学べるなんて。ワクワクしますね」

 うわぁあ~~ゲームそのまんまだ!

 ヤバイな、ちょっと興奮してきたぜ。

 正門が近づいてきた。

 いよいよ始まるんだなぁ。学園が。


 「あ、アビロス君~~おはよう~!」

 んん? 主人公ブレイルの声がきこえるが……どっから。

 おい!

 おいおいおいおいおい!

 おはようじゃねぇ! 主人公がなんで門番してんだ! 


 こいつ――――――


 ―――試験に落ちやがったぁあああ!!