魔界ゴミ焼却場で魔物を【焼却】し続けた地味おっさん、人間界に追放されて出来損ない聖女の従者となり魔物討伐の旅に出る。なぜか王国指定のS級魔物が毎日燃やしていたやつらなんだが? これ本当に激ヤバ魔物か?

 「え……ここどこ~?」

 あたしが清掃局に入社して間もない頃。
 希望を胸に抱いてワクワクしていたあたしは、ついついはしゃぎすぎてしまった。

 管理部に配属となったあたしは、管理塔でのオフィスワークが主な仕事。
 だけど今日は違った。

 そう、おつかいを任されたのだ。

 やった、現場を見ることが出来る!

 内容自体は簡単なものだったが、現場のみんなとお話ができる。
 焼却場の生作業がこの目で見られる。

 貸与された許可石を握りしめて。あたしはワクワクしながら現場に向かった。
 各施設は結界が張られているが、この許可石を持っていれば結界に弾かれることもない。


 ―――すっごい楽しい時間だった。


 現場のみんなもすっごくいい人ばかり。

 ルンルンの大満足で管理部への帰路についたあたしだったが、調子に乗りすぎた。

 まっすぐ戻れば良かったのだが、寄り道してしまったのだ。

 ゴミ焼却場はとてつもなく広い。
 メインの焼却場以外にも多数の施設が存在する。

 もちろんオリエンテーションで局長と各所を回ったのだが、そのほとんどは素通りだった。

 ちょっとだけ。

 ちょっとだけ他の現場も見たい。

 そう思って、今に至る。


 「え……ここどこ~?」

 なんか洞窟のような場所。施設なのかも良く分からない。
 あたしは管理部の許可石を持っていたので、弾かれることなく中に入ってしまった。

 そしてあたしは遭遇してしまう。
 その奥にいる怪物に。

 〖なんだ〗
 〖こむすめだ〗
 〖なにしにきた〗

 10本の首をもつ巨大なヒドラ。
 見た目は随分くたびれているが、あたしにとっては恐怖の塊以外のなにものでもない。

 「ひ、ひぃい……」

 あたしはあまりの恐ろしさに腰が抜けてしまい、その場から動けなくなってしまった。
 全ての首は鎖でつながれているだから、ここまでは来れないと思うけど。

 身体の震えが止まらない。

 〖こいつビビってる〗
 〖ああ、われをおそれている〗
 〖ひさしぶりのかんかく〗
 〖ここちよい〗
 〖もっとよこせ〗

 1つの頭が大きな口を開けた。
 その口の奥には真っ赤な炎が―――

 ダメだ……

 あんなのぶつけられたら間違いなく死んでしまう。

 だからといって、あたしはなにもできない。
 自身の固有能力を使う事すらできないほど、震えていた。


 ただただ目を瞑って恐怖に怯えていると―――


 ―――ボウっ!

 という音と共に吹き上がった炎によって、ヒドラの炎はかき消された。


 「―――大丈夫か? ここは勝手に入っちゃいかんぞ。そいつはまだまだ元気だからな」


 それがバートスさまとの出会いだった。



 ◇◇◇



 それからは、バートスさまといっぱいお話するようになった。
 現場に行くと嫌な顔一つせずに迎えてくれる。

 バートスさまを交えて、他のみんなとも仲良くなれた。

 助けてもらった時から、ずっとバートスさまはあたしのヒーローだった。


 「ふう……またこいつに会うなんて」

 10本を見るのは、あの出会いの日以来だ。
 そして、あの時は怖くてなにもできなかったけど。今は違う。

 もう怖くない。

 なんてことはなく、怖い……

 正直バートスさまのうしろに隠れたい。
 あたしのヒーローの傍にいたい。

 でもそれじゃ何も変わらない。

 あたしは変わったんだ。

 怖くても今は一歩踏み出すことが出来る。

 リズたちと旅をして、とんでもない魔物たちを討伐して、自分の能力の可能性に気付いて。


 あたしの出来ることをやるだけ。


 バートスさまは、より強い【焼却】を使うために今は動けない。
 リズとエレナはバートスさまの傍にいないとダメだ。暴走のリスクが高まるはずだから。

 バートスさまが集中できるように。


 ―――あたしが10本の相手をする!!


 砦の一番前に立つと、10本がケタケタと笑っている。
 たしか恐怖を食べるとか……つまり今は悦に浸っているということなら……隙はあるはず。

 とはいえいつものように全身【活性化】だと、この巨体の10本には近づくことすら出来ないだろう。


 だったら!


 「―――【活性化】脚部集中!!」


 あたしは脚に筋力を全振りした。

 「さあ~~いくよ~~!!」

 地面を思いっきり蹴り、弾丸のような速度で砦から飛び出す。


 ―――うわっ! 想像以上にはやっ!


 一瞬で10本の眼前に踊り出したあたしは、そのままその巨体に衝突しそうになる。

 ―――ぶ、ブレーキ!!

 すんでのところで止まり、ふぅっと息を吐き頭上を見上げる。

 〖なんだこいつ〗
 〖どっからきた〗
 〖まあいい〗
 〖つぶれろ〗

 10本の巨大な前足が、あたしを潰そうと頭上から迫る。
 あたしは瞬時に地を蹴り、その場から消えた。

 「ば~~か、そんな鈍足であたしは潰されないよ~~だ!」

 〖なんだどこいった〗
 〖いた、こっちだ〗
 〖こんどこそつぶれろ〗

 今度は上空に向かって地を蹴る。

 〖あれ、またいない〗
 〖おい、そこだ〗
 〖そこってどこだ?〗
 〖そこはそこだバカ〗

 あたしは10本の頭のひとつに乗っている。
 お次は―――
 脚の筋肉を戻して―――


 「―――【活性化】腕部集中!!」


 腕の筋肉がみるみる発達していく。

 「さあ~~思いっきりいくよ~~
 ―――カルラ~~~ぱ―――んちっ!!」

 ドゴッ!という鈍い音と共に、10本の脳天にあたしのパンチが炸裂した。

 〖ぐぬ〗
 〖やろう〗
 〖なんだこいつ〗
 〖へんなからだ〗
 〖キモイ〗

 うっさいな~~
 本当はこんなにムキムキになるの。あたしだって好きじゃないだよ。

 だって年頃の女子なんだからね。

 でも―――

 これはあたしだけの力だから。

 その後も【活性化】を使い分けて、なんとか10本の注意を逸らす。
 決定打を与えられるなんて思っていない。


 時間を稼げれば――――――それでいい!!


 もう少し距離を取って飛び回った方が良いかもしれないけど。
 近接してわかったことがある。

 得意の強力な炎を放たない。たぶん同士討ちになるからだ。

 〖このやろう〗

 10本が大きな口を開いてあたしに迫る。
 ギリギリでその場から別の頭に飛び移った。その勢いのまま、頭にかぶりついてしまう10本。

 〖いてぇ〗
 〖おまえじゃま〗
 〖なにお、かみやがって〗
 〖おまえごともやすぞ〗
 〖やってみろおまえこそもやしてやる〗
 〖おい、ケンカはやめろ〗

 10本が揉めている。

 これでいい。
 時間は稼げてる。あたしの仕事をしっかりするだけ。

 それから―――

 どれほどの時間が経っただろうか。

 腕をムキムキにして殴り、脚をムキムキにして飛び回り。
 とんでもない速度で変わる風景に、緊張感と恐怖と疲れが重なる。

 くっ……もう魔力が。それに体に負担を掛けすぎてる。

 あきらかに固有能力【活性化】の使い過ぎ。
 さらに慣れない使用で体中が痛い。


 「―――【活性化】脚部集中!!」


 ……っ! 筋力が……!?

 ダメだ……もはやあたしの体にはなんの変化も起こらない。
 10本の頭からブンっと振り払われて、あたしは地面に叩きつけられた。

 〖こいつ〗
 〖ようやくおとなしくなった〗
 〖もやそう〗
 〖それがいい〗
 〖かんぜんにはいにしてやる〗


 複数の頭が口を開いて、その奥から真っ赤な炎が噴き上がってくる。
 あんなものが直撃したら確実に灰になるだろう。

 なんか思い出すな。
 視界がぼやけているけど、前と同じ光景だ。

 でも今回は怖くない。

 なぜなら――――――


 ――――――ボウっ!


 あたしの良く知っている炎が10本の炎を消してくれるから。

 10本が放った炎は完全に相殺される。
 そして、フワっとあたしの体が持ち上げれた。


 「カルラ、良く頑張った。もう十分だ」


 ほらきた、あたしのヒーローが。


 「あたし、役に立ったかな」
 「ああ、最高だ! さすがカルラだ!」

 一番聞きたい言葉が聞けた。

 頑張って良かった。

 「カルラ! 大丈夫ですか!」

 リズがポーションをグイグイ飲ませてくれる。

 バートスさまの腕の中という最高の場所で、飲むポーション。
 なんか戦闘前よりも力がみなぎってくるような……ぼやけていた視界も回復していき……


 「―――って、バートスさま!! 10本の炎が迫っているよぉおお!!」


 10本から複数の炎が放たれる。


 「ああ、大丈夫だ。みんな来てくれたからな」

 「え? みんなって―――うわっ!!」

 10本の迫りくる炎は全て眼前で別の炎に相殺される。


 え、なにこの炎!!
 バートスさまのじゃない!?
 
 でも、どこかで見たことある。

 バートスさまの背後に、人影が次々に現れる。
 これ、魔王さまの転移魔法だ。

 ああ、この人たち……

 「ば、バートス? この方たちは……?」
 「俺の元同僚たちだよ。リズ」

 そう、かつての職場の仲間だ。

 「み、みんな~~~」

 サムズアップであたしに答えてくれるみんな。

 そしてバートスさまが10本に視線を向ける。


 「さて、俺の【焼却】は十分にためたぞ。
 待たせたな10本。さあ――――――仕事の時間だ!!」