俺たちはナトル王都の王城に来た。
 宿屋は王都の外れにあるので、近くはないが歩いて行ける距離だ。

 謁見の間が人で溢れかえっている。今日は先日のノースマネア防衛戦に勝利した論功行賞が行われている。

 「次! 東部領マタナ男爵殿!」
 「ふむ、マタナ男爵。此度の働き見事であった。金貨100枚と伯爵の爵位を授ける!」
 「はは~~ありがたき幸せ!」

 なんて、やり取りが延々と続いている。
 ずっと立ちっぱなしで。正直オッサンもう足が痛くなってきた。

 そもそもアレシアはともかくとして、俺を呼ぶ必要なくないか?

 今日はリエナも王様の横にいる。ドレス姿のリエナを見ると、やはりお姫様なんだなぁと思ってしまう。似合うなあ、宿屋で受付嬢制服を着せているオッサンは大丈夫なんだろうかと変な汗が出るよ。

 「次、アレシア殿! 前に!」

 ブツブツ脳内で独り言を呟いていたら、アレシアの番がきたようだ。

 彼女が王様のまえに膝まづく。

 「敵軍の主力を粉砕する突破力は見事じゃ! ナトルの勝利に大きく貢献した其方には、金貨200枚と宝剣サイラスを授ける! これからもナトルの守護者として活躍を期待する!」

 「いいだろう! 先生がこのナトルにいる限り!」


 ええ……なにその宣言……まあ追放されない限りはこの国にいるつもりだけど。


 「おお、先生とは例の特別役殿のことか……剣聖殿にそこまで言わせるとは」
 「さすがアレシア殿を育てただけのことはある!」

 そんな周囲のザワツキを聞いてか、アレシアが得意げに胸をバーンと張っている。

 うわぁ、変に目立ち始めたぞ。これは嫌な空気になってきたな。
 しかし流石にオッサンは呼ばれそうもないか。さっきから呼ばれているのはなんとか伯爵とか男爵とかだし。

 うむ、今日はアレシアの晴れ舞台を見れたからな。それでじゅうぶんだ。

 早く宿屋に帰ろう、またセラにワンオペ営業をやらせてしまっている。そろそろブチ切れてしまうかもしれん。仕事ができるからといって、特定の人物に集中させていいわけではない。そんな宿屋は遠からず従業員はみな去ってしまうだろう。

 「では、最後に! ―――特別役バルド殿、前に!」


 いや、俺の番あるんかい……しかも最後だって。


 ここで行かないわけにもいかないので、王様の前に行きうやうやしく跪く。

 「おお、真打登場じゃな。う~む、実はバルドには何を与えるかまだ迷っておってのう」

 ええ~考えといてくれよ~~

 こんな大勢の前でオッサンの放置プレイとか、絶対需要ないよ。

 「そうじゃのう。はじめは金貨をと思ったが、お主の働きに金貨ごときでは釣り合わんしのぅ」

 ええっ! 金貨くれる予定だったの! 
 じゅうぶんなんですけど! 
 実はもしかしたら銀貨ぐらいもらえるかもな、とか密かに思ってたんだぞ!

 「お父様、バルドさまはこの国を救ってくれました。その功績を考えれば、この国の歴史になってもらうのはいかがでしょう?」
 「おお、リエナよ。それはいい案じゃ。永遠に語り継がれるものが良いのう~~」

 なんだか大げさな話をしはじめたぞ。 
 もう銀貨でいいから!
 できれば5枚ぐらい欲しいけどな。

 「よし、バルドよ! お主には【神撃のナイト】の称号を授ける!」

 え? なに? シンゲキ……? 俺は思わず顔を上げた。

 「おお、【神撃のナイト】とは! ナトル王国を建国した初代ナトル王のみが得た我が国で最高の称号だ!」
 「あの称号を賜るというこてとは、自動的に侯爵の地位に就くのと同義だぞ、凄い!」

 なにそれ? 


 そんなんいらん―――


 あ、ヤバい思わず口から出ちゃった……

 「あ、え~とですね。私はさして活躍もしておらずですね。そのなんちゃらの称号とかは分不相応かと思いまして」

 必死に言いなおす。
 まあ本気でいらないのは事実だからな。だが王様の前で「いらん」と言うのはマズかった。

 「おお~なんと! 特別役殿が辞退したぞ!」
 「なんというお方だ、あれだけの活躍をして一切奢らないとは!」

 活躍? いったい何の話してんだ? この人たち? 

 「フォフォ~、バルドよ遠慮は無用じゃ。それともお主は【神撃のナイト】では不服と申すか」

 いやいや、わけのわからん称号とか歴史とか爵位はいらん。
 以前から思ってたが、この王様と話かみ合わないんだよな。

 「その~なんちゃらナイトは、私が貰ってもしょうがないというか困るというかですね……」

 もう銀貨5枚も諦めるからオッサン帰してくれ。

 「う~む、困ったのう~ではうちのリエナでも貰っとくか? 【神撃のナイト】を上回る褒美と言えばそれぐらいしか浮かばんぞ」


 まてまてまてまて~~


 何を言い出すんだ、この王様? 俺ただのオッサンだぞ。
 王族の娘ならしかるべき嫁ぎ先とかあるだろう。ましてや自分の娘を軽く扱いすぎだ。リエナ怒るぞ。

 ほら、リエナもちゃんとオッサンの嫁なんか嫌だと言いなさい!

 彼女の方を向くと、顔が真っ赤だ。
 ほらぁ、羞恥にまみれて怒りを通り越してるじゃないの。

 「ポッ」「ええ~そんな急に~」などとモジモジし始めるリエナ。

 ふむ、もはやまともに口も聞きたくないのだろう。だが―――

 「嫌」なものは「嫌」と言わないと君のお父さんには通じないぞ。
 しかしここはオッサンが代弁するか。かわいい従業員のピンチだ。

 「いやいや、国王陛下。失礼ながらリエナ王女殿下と私ではまったく釣り合わないかと。それにそんな簡単に決めるものではないかと存じます」

 俺の言葉を聞いて、ガックリとうなだれるリエナ。

 なんで!? オッサンすっごい助けたんだけど!?

 「う~む、しかしなにも褒美なしは、わしの沽券にかかわる。バルドよ、もう何でもいいから言うが良い」


 ええ! 欲しいの言っていいの!?

 では、銀貨5枚……いや、まて! もう少し押してみるか? なんかいけそうな気がする。


 「じゃあ―――新しい洗濯窯が欲しいです!」


 だって1個じゃ洗濯が追い付かなくなってきてるんだもん。