何とかマッチは見つけたので、ジャガイモをダンダン切って鍋に放り込む。
 味つけ? そんなの塩さえあれば良いんだよォ! オラッ! の精神で、焦げ気味の焼きジャガイモに塩を振ってお皿に盛りつけ、それを子供たちに出した。

 「……」
 「……」
 「……」

 全員の顔が地図記号(∵)みたいになってたけど、遠慮せずに食べてええんやで……と私はニコッと微笑む。
 しかしガルーはフォークでツンツンして訝しんでいるし、サングレはゲテモノを前にした少女のように泣きじゃくっている。

 失礼な反応だけど、ここで急かすとガル虐とかサン虐扱いになって将来的に殺されるかもしれないので、私は女神の笑みで促した。

 「どうしたのかナ? 美味しいヨォ~? じゃがいもサンは栄養いーっぱいだヨォ~?」

 紅龍様みたいに胡散臭くなっちゃったけど、ガルーが苦虫を噛み潰したみたいな顔で話しかけてきた。

 「おい、手前、コレ、ニンゲンの食い物とおもってんのか?」

 流石にそれは失礼でしょ! と思って私は立ち上がる。

 「し、失礼ねー! ちゃんと食べられるものを食べられる手順で作ってるんだから、料理が出来上がるはずでしょー? 出来なかったら錬金術じゃない!」

 そんな中、アリアが無表情のまま、ぱくりとイモを一口食べてくれた。

 直後、アリアは「ゴッ、ゴッ、ゴッ」と、猫が毛玉を吐く秒読みみたいな声を上げて咽る。

 「キャー! アリアー!! しっかりして! 吐くならこの洗面器にー!」

 私がバスルームから洗面器を抱えてダッシュする間、サングレは怯えてテーブルの下に隠れるし、ガルーは「やっぱ食いモンじゃねぇ!」と悪態をつくし、アリアは何というか、その、つまり、間に合わなかった……。

 で

 「おとなのくせに、料理できねぇとかしんじられねぇ」
 「ガルーくん、そういうことゆうのやめなよ……」
 「……」←シワシワの顔のアリア

 ちびっこ達に〆られた私は、台所の隅で『私は錬金術師です』という札を抱えたまま、半泣きで正座していた。

 「うぅぅぅぅぅううう……。こんなハズじゃなかったのに……」

 自分の不甲斐なさと、これで将来的にガルー達に殺意を抱かれるんじゃないかという恐怖でブルッてしまう。

 「うぅぅぅううううう……」

 すると、私が震えながら泣いているのを見た三人が顔を見合わせて、ヒソヒソ話し出した。

 本人の前でカンジ悪いな~と思ったものの、直ぐに三人は動き出す。

 アリアがジャガイモを洗い、サングレが皮を器用に剥き、ガルーが鍋で焼きだした。
 こんな小さな子に料理させていいのかと思ったけど、三人は自炊経験がかなりあるらしく、迷いのない手つきでジャガイモを調理していく。

 数分後、テーブルの上には美味しそうなジャガイモを焼いた料理(名前不明)が……!

 それを改めて『いただきます』する子供たち。
 香ばしい匂いに私のお腹も「グゥ」と鳴る。
 お、美味しそう……と思いつつも、ジャガイモを無駄にした私は皆の輪に入るわけにもいかないと遠慮していた。

 皆は空腹だったらしく、ガルーとアリアは遠慮なくガツガツ食べていた。
 けど、サングレだけは気まずそうに私をチラチラ見ている。
 ここで物欲しそうな顔をすると、将来サングレに『死んでくださいクソビッチ!』と刺殺される気がするなぁ……。え~っと……。

 ・物欲しげに見つめる
 ・聖者の笑みで見守る

 脳内に選択肢が浮かんだけど、ここは後者でしょ!
 私は腹の虫と戦いながら、サングレにニコッと微笑んでみせた。

 「!」
 するとサングレは大きな目をぱちぱちさせて驚いているようだった。
 なんでそんなに驚いているんだろう?
 私の疑問を他所にサングレは椅子から、ちょこちょこ下りてくると、料理がのったお皿を持って、控え目に近づいてきた。

 「あ、あの、おねえさん、これ……」
 「えっ」

 問い返すと、サングレは俯いたまま、もごもごと語る。

 「……このジャガイモさん、おねえさんがくれたものだから、おねえさんもたべるケンリ、あると、ぼく思うから……」

 ええ子や……!

 思わず、ぶわっと涙が出た。
 ガルー達に殺され続け、推しの紅龍様には塩対応され、ハゲ上司に詰められた果てに、ようやく人類の善意や温もりに触れられたのだ。泣かないわけがない。

 サングレがオロオロしていたけど、その姿が可愛らしくて、彼に私は思わず抱きついていた。

 「サングレ~! ありがとう! なんて優しい子なの~!」
 「ふが!」

 抱きしめて頭を撫でまくっていると、サングレは目を回しながらアワアワしていた。

 「お、おねえさん、お、おむねが、くるしい……ッ」

 ハッ! し、しまった! 勢いあまってつい……!
 ディディの所為で女嫌いになったサングレなんだから慎重に接しないと!

 しかし、戸惑うサングレの言葉の最中に、手の平に熱い衝撃が走る。

 「きゃあ!」

 私は悲鳴を上げて自分の手の平を見る。サングレを撫でていた右手の手の平から血が一筋、垂れ落ちていた。

 「えっ……」

 呆然としたけど、あ、しまった! サングレは体から刃物を出す異能持ちなんだったわ!
 サングレのうなじからは鋭い刃物が伸びており、それが私の血に染まっていた。
 これに刺されたのだとわかった。

 サングレは俯いたまま震えており……。

 うん!

 こりゃあ死んだな! と私は察した。

 よーし! 紅龍様、定番の巻き戻しお願いしま~す!!

 と、いつもの如く目を閉じて巻き戻り待ち顔をする。
 もう次はガルーらが赤子の時まで巻き戻るしかないわ! とか考えつつ……。