「私を殺してください。」
私がそう言うと彼は目を見開いて固まってしまった。困ったような顔をして、無言で私の頬を触れる。行動の意味が読み取れない。いつもは当然のように分かりあっているのに、彼の考えが全く分からない。普段と違うことが起こりパニックで落ち着きがなくなっていく。困って助けて欲しい自分がいる反面そんな自分を見て笑う私もいる。こんな矛盾ばかりの自分が嫌で殺して欲しいと彼に頼んだのだ。自分で死ぬ勇気が無くて人に頼む自分の弱さが酷く惨めで泣きたくなってくる。気持ちを紛らわすため頭をフル回転させると、少し急だっただろうか?断られたらどうしよう?そんな考えで頭がいっぱいになる。　何か言わなければ。断られたくない。そんな思いを絞り出すように
「私にせめてもの慈悲をくれませんか。」
息を吐く様な小さい声だった。だが心臓の音が聞こえるほど静寂な部屋では十分だった。それでも伝わったか分からい。それからどのくらいたっただろう。数秒だったかもしれない。だが私にとって何時間に思えるほど間が空いた後彼の手が頬から首に移動した。彼は大きく息をした。その様子を見て不安止めどなくが溢れる。恐怖も沸々湧き上がる。大丈夫かな?馬鹿なこと言うなって言われるかな?怖い怖い怖い怖い怖い怖い頭が嫌な思考に寄っていく。
「大丈夫大丈夫、、心配しないで、、、」
彼がそう言った。その瞬間私の心から不安は消え去った。確実に彼は私の望み通りにしてくれると、嬉しさが込み上げる。口角が上がった頃に彼の親指に力がこもる。気管が狭められてヒューと息の音がする。彼を見上げると唇を噛み締めて泣いていた彼は何かを我慢する時唇を噛む癖がある。そんな事を思い出す。そんなに噛んだら血が出てしまうよ。悲しまないで。安心させたくて精一杯の笑顔を見せて
「貴方は、」
私の分まで幸せに生きてね。そう言いたかったのに、言葉を続けられない。最後に見る彼の顔は悲しみで酷く歪んでいた
あぁ私の後を追ってこないでね。私の一番大切な人。
意識が沈んでゆく。