「さぁ、こちらだ」
そう言って玄関に向かい、いかにもな和風の……じゃなかった。まずは透明な素材に白い枠のついた外扉を開ける。

……まさかの二重扉かよ!雪国か。隔り世は雪国なのか。いや、この鬼の屋敷が雪国にあるだけかもしれんけど!

そしてがらがらと横開きの扉を開ける。完全に木製と言うわけでもなく、縦に並んだ格子は金属製のようである。

そうして開いた扉の向こうの玄関は……。玄関だけで、ワンルームマンションくらいあるのではないだろうか。靴脱ぐスペースひっろぉぉっ!テレビなんかで見る老舗旅館のエントランスかよ……!

――――――そして、

「お帰りなさいませ」
出迎える鬼やら妖怪の和服のお姉さんたち!中には猫耳しっぽのお姉さんたちも……にゃんキュン……っ。

「お帰りなしゃいにゃぁ~」
「ぬししゃま帰ってきたにゃぁ~!」
ぐふっ。
そのお姉さんたちに混ざって、めちゃくちゃかわよいちびねこちゃん2人がいたぁ――――――っ!

そのちびねこちゃんたちはどちらも幼稚園児くらいのちびっ子で、ひとりが女の子、もうひとりが男の子である。

女の子は白い髪に、金色の瞳に白い猫耳ふわふわしっぽ。
男の子は茶髪金眼に茶色い猫耳にもこもこしっぽ。

「あの……」
ついつい話し掛けてしまった。

「おねーちゃんにゃぁ」
「ぬししゃま、おねーちゃんにゃぁ!」
鬼を見つめて、私のことが気になってるアピール。……あぅあぁぁ~~~っ!!!かわいすぎるうぅぅっ!

「あぁ、俺の花嫁だぞ」
満足げに告げる鬼にちょっとイラっと来たが……。

『花嫁しゃんにゃぁ~!』
ぐはっ!!
ちびねこちゃんたちのかわいすぎるハモりにぐはらないわけがない……!!

「そうだ。最高にかわいく愛しい花嫁のアリスだ。たくさんもふもふすりすりしてあげてくれ」
ぐはぁぁっ!相変わらず本気なのか大嘘つきなのか分からない鬼の褒めたぎりは置いておくとして……!たくさんもふもふすりすりとか……!ねこもふすりすりとか……!

そして暮丹に続きローファーを脱いで屋敷の中に上がれば、私のローファーと暮丹が履いていた草履をささっと片付けるお姉さんたち。まさにプロの業……!?

さらには……

「アリスねーねにゃぁ~!」
「すりすりするにゃぁ~!」

トコトコトコ……

てけてけてけ……

すりすり、すりすり

あぁ~~~~っ!遠慮なくすりすりしてくれる、ねこちゃんたちっ!それもちびねこちゃんたちいぃぃっ!!!

鬼は……やはり鬼だ……!こんなかわいいこねこちゃんたちで心を掴むとか……!狡猾で、ねこ好き、侮れないっ!

「すりすりにゃぁ」
「アリスねーねすりすりにゃぁ」
はああぁぁぁぁんっ!!
そんな……でも、やっぱりねこは……好きっ!!

ぎゅむーっと抱き付いてきてくれるちびねこちゃんたち。さらに極めつけが……。

『にゃにゃぁ~~!』
かわいすぎる……にゃんコール!!
あぁ、私、幸せ……。

「ふふふっ。これでアリスもこの屋敷から逃げ出せまいっ!ふは~っはっはっはっ!!」
は……っ!なんてこと……!これはそう、鬼の策略だったと言うのに……、私ったら……!

――――――しかし、

「にゃ~!ねーねあったかいにゃぁ~」
「すりすりにゃぁ~!いいにおいがするにゃぁ~!」
ぎゃふぅっ!
い……いい匂いって……そうなのか……?普通に毎日シャワーに入ってるだけだよぉ~~……。

うぅぅ……もうこのかわいいちびねこちゃんたちを置いて、ここを出ていくなんてできない!しかし、そうだ……!かくなる上は……っ!こう言うときのテンプレがあるではないか!

「ちびねこちゃんずを連れて、ここを出る!」
「なん……っ、だと……っ!?そんな……っ!」
ピクリと表情をこわばらせて驚愕する鬼。しかしそうすれば私もちびねこちゃんずもハッピーである!あぁ、素晴らしきかな……!なんて素晴らしい方法を思い付いてしまったのだ……!私、天才っ!!

「しかし、そうはいくかな……?」
ニヤリとほくそ笑む鬼。
「な……なぬ……っ!?」
まだ、抵抗すると言うのか……!?

「このこたちの親ねこは、ここ、俺の屋敷の従業員である!つまりアリスは親ねこたちもともに連れていかねばならぬ。さて、この俺が出している賃金を、アリスが賄うことができるのか……?むろん、この隔り世いちの俺の屋敷の従業員だ。アリスがひとり働いたとしてもとてもじゃないが賄えない!」
「ぅぐ……っ」

「例え、現し世でもこの金は出せないし、俺がいなければ隔り世から現し世に戻ることもできない」
そりゃそうだ。私は隔り世に連れてきてもらっただけだ。戻りかたなんて知らない。

「もちろんほかの隔り世の住民は頼れないぞ。若い人間の娘など、そっくり騙されて食われるな、うん」
「鬼畜うぅぅ~~っ!」
これぞ、鬼畜、オブ鬼畜。血も涙もありゃぁしない。

「じゃぁ私もここで働く!」
こう言う時は、こう言う実力行使である!見たか、鬼。女子高生を嘗めてはいけない!女子高生の活力をナメんじゃねぇっ!!

「……ふむ、いいだろう」
鬼がニヤリと口角を吊り上げる。

「い、いいのか……!?」
まさか、いいと言ってもらえるとは思わなんだ。もっと抵抗すると思いきや……!!

「ただし!募集職種は俺の花嫁これ一択のみとする!!」
「うぐおぁぁぁ――――――っ!!」
まさかの求人来たぁぁぁ――――――っ!!
いや、そもそも花嫁って……職種、なのか?
だとしたら、専業主婦も家事で旦那からお賃金をもらえると言う衝撃の事実だが。全国のお母さんが喜んじゃうよ。時給いくらだろう。

「……それは契約花嫁ってことか?」
「そうなるが……しかし、気が付いた時にはもはや、契約ではいられない感情が、愛が芽生えているものだ」

「そ、んな……っ」
ことはないと言いたいが、この鬼ならやりそう。
そしていつの間にか絆されてしまうのがヒロインの宿命なのだ……!

「アリス、お前に残された道は、俺の花嫁として、清潔で素晴らしいシーツで寝るか、あるいはシスコン兄のシーツくんくんに脅えながら、シーツなしの敷布団の上で寝ることのみだ!!」
「あぅあぁぁ――――――っ!」
まさかの、まさかのシスコンお兄ちゃんまで出してくるとは鬼――――――っ!!まさに鬼――――――っ!!

しかし、どこの世にも鬼畜鬼あればなんとやら。

――――――しかし、その時。

「あんたァッ!!かわいい女の子を契約花嫁だなんて、ナメてんじゃないわよっ!!」
「がはぁっ!!」
鬼が、突如鬼のお姉さんにヘッドロックをキメられていた。