「そう言えば……高校」
ここに連れて来られてから、全くと言っていいほどに……忘れていた。

「あぁ、ねこはいいな」
暮丹は、ねこを愛でている。

「な~ぁん」
暮丹の膝の上の猫又は、暮丹に撫でられ気持ち良さそうにあくびをしている。

「にゃーちゃんにゃぁ」
「ねこまたって言うんだにゃぁ~!」
暮丹のお膝の隣でかわいく猫又をなでなでしているまふゆくんとみふゆちゃん……めちゃくちゃかわいい……っ!!

「あの、暮丹」
「どうしたアリス。ねこを吸いたいのなら吸ってもかまわぬ」
そりゃぁねこは吸いたいけれどもっ!!そうではなくてだな……。

「高校……どうしようかと思って」
暫く何も連絡していない。ぶってゃけ、サボり状態である。

「行きたいのか?」

「……うん……、うん?」
行きたい……のだろうか?学園中白梅の息がかかった一種の異様な場所だぞ。

「そうか、ならば編入手続きをしておこう」
「へん、にゅう?元の高校は?」

「元の高校?それは鬼が経営に携わっているわけではあるまい。圧力はかかっていたようだが……まぁ教育系は別の頭領の管轄だから、目立たぬようにやっていたようだが」
それって……金雀児の圧力ってこと……!?それに……教育系は別の頭領の……。それは初めて知ったな……。まぁ白梅は学校中を自分のものにしていたけど、うまく外にでないようにしていたのかな……。まぁ、そうじゃなきゃワイドショーのスクープとかになりそうだものな。

――――――とは言え。
「いつの間に調べたの?」
「娶る時には、さすがにいろいろと調べる。俺は現し世の人間には立場上あまり関与はできないが、アリスが俺と婚姻を結び、こちら側の住人になったのなら別だ」
そっか……私はもう、隔り世の……こちら側なのか。

「俺と結婚した以上、その寿命は俺と同じくなり、俺の加護を受ける」
寿命のことは……知っている。お兄ちゃんから聞いたことがあるもんな。

鬼の花嫁や妖怪の花嫁となり、隔り世の住民となるのなら、その伴侶の妖怪や鬼と寿命を同じくする。

だから現し世で生きることを選べば寿命は人間のまま。

隔り世のものと契るには、隔り世の住民とならなければならない。だから現し世の住人のままでは、愛する妖怪や鬼を置いて、人間は先に逝くことになる。

それから、加護……か。昔、お兄ちゃんに聞いたことがある加護と言えば。

退魔師は、退魔師の神【鴉丹烏木尊(ヤタウボクノミコト)】と退魔師協会の元になる退魔師集団を率いた伝説の退魔師【鴉木比売(カラスキヒメ)】を祀っている。

強い霊力を持つものは、その2柱の神の加護を賜ることがあると言う。お兄ちゃんは鴉木比売(カラスキヒメ)の加護を持つ。

それから、鬼に関係する加護と言えば……鬼神の加護である。

鬼の頭領があれほど強いのは、その血筋と隔り世の鬼神の加護を得ているからだとされている。

暮丹の言う加護は、その鬼神の加護と何か関係あるのだろうか?それに……。

「そう言えば、鬼の長って……なぁに?」
まだはっきりと聞いたことがなかった。

「鬼の長とは8人の頭領を纏め上げ、隔り世を治める鬼神だな」
「鬼、神」
鬼の神さま?

「私、初めて暮丹と出会ったのは神社だった」
夕焼け色の不思議な色の鳥居。

「あぁ。あの社は、稀に現し世と繋がり、姿を現す。俺はアリスを花嫁として迎えると決めた。だからこそアリスは望めばいつだって社に続く鳥居を潜れる」
そう言えば……いつも道順を覚えている気がしたけど。今思い出せば、どうやって辿り着いていたのか……自信がない。

「現し世では招く時もあればそうではないこともある。この屋敷の一部でもあるが」
「一部!?ここに社もあるの?」

「あぁ、ここは隔り世の神宮だが」
ー神宮ー

「現し世にも隔り世のものがいる。そのために現し世と時たま通じるための社もある。それがあの社。ここから行こうとしてももちろん行ける。この屋敷は鬼神の宮……神宮の土地の一部だからな」
そう言えば……山とか社もあるって言ってたっけ。この屋敷は、その鬼神の神宮の一部ってことか。それならもしかして、あの時私を助けてくれた鬼神も、ここに!?

「あの、社に詣でてもいいの?」
「……」
暮丹は驚いたように目を見開いた。何か、変なことを言っただろうか?それとも隔り世では現し世のお参り方法が違うのだろうか?

「構わないが……望みがあるなら直接言えばよかろう。アリスは俺の花嫁ぞ」
「えっと……暮丹は鬼神さまの知り合いなの?」

「知り合いも何も……鬼神は俺だ」
「え……?」
じゃぁ暮丹は……私を助けてくれたあの時の神さまほんにんと言うことになる。

「……神さま?」
「そうだが、アリスにそう呼ばれたくはない。暮丹と呼んでくれ、我が愛しのアリスよ」
爽やかに微笑む暮丹にドキっとする。あの時の夕焼け色……やっぱり、暮丹。そしてあの神さまは、暮丹。

「その」
「うん?何か望みはあるのか?」

「望み……というか……その、教えてほしくて」
「何だ?」

「あの神社はどうして鬼が入れるの?」
初めてあの神社に逃げ込んだ時、鬼が雪崩れ込んできた。

ただそれは最初だけで、その後は鬼が鳥居の中に入ってくることはなかった。

「社の主が鬼神だからな。社には鬼も仕えている。だから鬼も入れるが……ならず者は歓迎しない。俺の怒りに触れるだけだからな」
最初に雪崩れ込んだ鬼もいつの間にか社の中から消えていた……。暮丹が追い出してくれたのだろうか。

「まともな鬼ならば押し寄せない……(アリスが来る時は社のもの以外は追い出したしな……)」
最後の方はよく聞こえなかったが……。

「……暮丹が守ってくれたんだね」
思えばあの時から、金雀児の脅しは少なくなった気がする。白梅は相変わらず攻撃をしてきたけれど。白梅は鬼の花嫁となる身であったが人間だ。鬼神のことなど気にもせずにいつも通り攻撃してきたけど。金雀児の影が以前よりかは成りを潜めていたのは……鬼神の、暮丹のお陰だったんだ。

「……ありがとう」
「当然だ。そしてもうこちら側の住人となり、俺の花嫁として、守られる」

「……うん」
やっと……、やっと安心できる場所に辿り着いたんだ。