***


「あっ、ああ!……ああっ!!」


 一冊、また一冊と焚き火の中に放り込まれる桜子のコレクション。

 人知れず楽しんでいた可愛いコレクション達が、燃えかすとなっていく光景に涙するが、そんな桜子に構わず高道と桜河はどんどん火の中に投げ捨てていく。


「あんまりです……ううっ」


 ハンカチで涙を拭う桜子に対して、鬼山家の庭を借りて行われる焚き火を、親の敵のような眼差しで見つめる高道。


「よくもまあ、こんなにも集めたものですね」

「予想外の多さだな」


 兄の桜河も妹のコレクションの多さに呆れている。

 玲夜の命令により、桜子の部屋は畳の下まで隅々調べられ、玲夜と高道を主人公にした本がかき集められたのだが、予想外の多さだった。
 
 それらは玲夜の命令通り欠片一つ残さず燃やされることとなってしまった。



 コレクションを全て失ってしまった桜子は、しょんぼりしたまま学校へ。

 すると、すぐに女子生徒がわらわらと集まってきた。

 彼女達は友人ではない、友人を超えた絆で繋がる同志達である。


「桜子様ぁぁ」

「ああ、なんということでしょうか。高道様がいらっしゃって私達漫画同好会を解散するようにと」

「これまでの作品も全て没収されてしまいましたわ」


 涙ながらに訴える女子生徒達に桜子も悲しくなる。


「申し訳ありません、皆様。コレクションが玲夜様の目に触れてしまい、お怒りを買ってしまったのですわ。私の責任です」

「そんな、桜子様が謝罪する必要はございませんわ」

「ええ、ええ。そうですとも。桜子様のせいではございませんよ」


 慰めの言葉が掛けられるが、桜子の気持ちが浮上することはない。


「けれど、もう同好会が解散してしまっては、会も解散せねばならないかもしれませんね」

「そんなっ!」


 桜子の言葉に、女子生徒達が衝撃を受けた顔をする。


 会というのは、玲夜と高道の恋を応援するために発足した知る人ぞ知る会だ。
 その名も、『玲夜様と高道様の恋を見守る会』である。


 まだこの会は知られていなかったようだが、それも時間の問題だろう。
 そもそも、玲夜と高道はそういう仲ではないのだから、見守る必要はない。


 皆がしょんぼりと肩を落としていると……。


「心配には及びませんわ!」


 桜子達の中に割って入ってきたのは、高道により解散に追い込まれた漫画同好会の会長である。


「桜子様は、このまま解散でよろしいのですか!?納得出来るのですか!?」

「けれど、同好会は解散させられ、私のコレクションも全て灰になってしまいましたわ」

「これをご覧下さい」


 さっと渡された冊子をめくると、例の桜子のコレクションと同様のものであった。

 これらは全て没収されたはず。

 けれど、よくよく見てみると、登場人物は同じだが、名前が違う。


「これを、どうしたのです?」

「徹夜で仕上げました。これは玲夜様でも高道様でもありません。似ていますがお二人に似た別の者です。どういうことかお分かりですか?」

「まあ!」


 没収されたのはあくまで玲夜と高道を題材にした作品であり、それ以外は問題ない。
 その手があったか、と桜子達の顔が明るくなる。


「そして私、玲夜様と高道様を見守る会、会員ナンバー二番。副会長も務める、漫画同好会会長改め、漫画研究部部長として、先程部の承認をいただいてきましたわ!」


 ドヤ顔で胸を張る部長は、眼鏡をきらりと光らせた。


「今なら部員募集中です」

「入ります!」

「私も!」

「私もです!」


 次々に立候補したのは、元漫画同好会の部員だ。


「活動内容は、同好会の時と変わりありません。ですが、あくまで創作。似ていると言われようとも、違うと言ったら違うのです!」

「素晴らしいですわ!」

「万が一高道様がまた何かを言ってきたとしても、創作で押し通しましょう。けれど、できるだけ密かに隠密活動するのですよ」

「了解です、部長!」

「我ら、何度潰されようとも不死鳥がごとく何度でも蘇ってみせますわ!」


 おほほほほっと高笑いする部長を、桜子と新たな部員は尊敬の眼差しで称えた。


「早速依頼をいたしますわ。なくしたコレクションの代わりをお願いいたします!」

「承知いたしました。全身全霊をかけて作品を世に出し続けて見せます!」



 後に、鬼龍院すら恐れぬこの部長は、腐った世界では有名な漫画家として、世に名をはせることとなるのだった。