「待ってください!!」


私は部長の手首をつかんだ。
私の口調と手の力が存外強かったせいだろう。
部長は驚いた顔をして、動きを止めた。


「私は部長のお母さんにお会いしたいです」


勝手な言い分かもしれない。
彼の心に土足で踏み入っているかもしれない。
疎ましく思われてしまうかもしれない。


でも、家族なんだ。
私と一色禅は。


「部長のお母さんは私のお義母さんです。どうしても、ポンちゃんが産まれる前に会っておきたいんです」


部長はしばらく黙っていた。
うつむき加減に目をそらして。


「わかった」


随分経って、彼は呟く。
声の調子が変わっていたので、
私は彼が気持ちを固めたのがわかった。

部長は私の手を手首からはがすと、ぎゅっと握り返して言った。



「今週末、会いに行こう」