私は思い切って口を開いた。


「部長、部長のお母さんのお見舞いに行きませんか?」


部長が黙った。

数瞬の沈黙を挟んで、言う。


「社長から聞いたのか?」


「お加減があまり良くないと聞いただけです」


あのジジイ、余計なことを。
部長がそんな風に小さく悪態をつく。


「今日明日死ぬような病気じゃない。妊娠中のおまえを連れてわざわざ会いに行くことはないんだ」


「私は平気です。妊娠経過も順調ですし、名古屋までなら日帰りだって行けます。
部長が顔を見せたら、お母さん喜ぶんじゃないですか?」


「……どうせ、見たって俺の顔もわからないさ」


部長は自嘲気味に呟いた。
それから、話を打ち切って立ち上がろうとする。