社長は語り出した。


「あいつが『役付きなら入社してやる』って偉そうなことを言うから、本当に部長職を用意してやったんだ。結果はよかったと思ってるよ。あいつのおかげでうちは大きくなったからね。
ゼンの母親とは大学の卒業前に挨拶に行って会ったんだ。有名大学を出て、名もない新規事業に息子を引っ張り込んだお詫びにね。ゼンの母親は明るくてさっぱりとした人だった。僕とそう年も変わらなくてね」


社長はなるべく言葉を選んで喋っているようだった。
それは、核心部分を自分が言ってはいけないと思っている様子だ。


「ゼンの母親はすでに発病していた。初期で本人も元気だったけれど、ゼンの心にはどこかで母親の元に戻ってやりたいという気持ちがあったみたいでね。僕は挨拶に行くことでそれを断ち切らせてしまった。
あいつの母親もまた、『私のことは気にせず、東京でやりたいことをやりなさい』なんて発破をかけてくれた」