「千世もさ、見習いなさいよ」


朝から忙しそうなお母さんは、布団を干した後もまだパタパタとリビングを駆け回っていた。わたしはミルクティーをずずっと飲みながら「何を」と後ろを通るお母さんに言った。


「何をって。ほら、大和くんは将来のこと考えてすっごい頑張ってるじゃない。千世もさ、そろそろ頑張らなきゃ。お友達とそういう話しないの?」

「……するけど」

「いつまでも適当にじゃだめなのよ。自分で先のことを考えていかないと」

「わかってるよ」


答えても、まだお母さんはぐちぐち何かを言っていたから、聞こえていないフリをしてフレンチトーストをかじった。


だってわかってる。そんなこと、お母さんに言われるまでもなく、わたしが一番わかっているんだ。

きちんと将来を考えなければいけない。大人になっていかなければいけないし、みんなと同じように、でもみんなとは違う場所へ進まなければいけない。

いつまでも同じ場所にはいられないのだ。


「ごちそうさま」

「お、早いな」

「用事があるから」

「用事? デ、デートじゃないだろうな!」

「そんなわけないじゃん。地域のためのボランティア活動」

「そ、そうか、偉いな……パパ、彼氏は大和くん以外認めないからな」

「はあ? 何ソレ」


カラのお皿をシンクに置いて、急いで支度をして家を出た。

眩しいくらいに晴れた陽気は、昨日までよりずっと暑くて、日焼け止めを塗り忘れてきたことを全力で後悔した。