「で、仕事はどうだ?」
たぶん常葉はわたしがその報告をしに来たことをわかっているんだろう。それから、きっと結果ももうわかっているのだろうけれど、訊いてくるからわたしも右手でピースをつくる。
「大成功。お店、すっごいお客さん一杯来てた。たぶんもう大丈夫だよ」
「そうか、よかったな。またひとつ願いが叶えられた」
「うん、よかった」
今日のおじさんの表情は、最初に会ったときとまったく違っていた。あの負のオーラがなくなるだけで多くのことがずっと変わっていくと思う。
さすがに本物の神様じゃないわたしには、今後もお店を見守るなんて無理だし絶対に嫌だけど、きっともう神頼みをしなくても、おじさんのお店は大丈夫な気がする。
「ぶっちゃけ、わたしちょっとあのおじさんのこと苦手だったけどね」
「そうなのか。俺はあの男は好きだぞ」
「え、どこが!? 常葉ってそういう趣味?」
「そういう趣味がどういう趣味かは知らんが、あの男は確かな夢を持っていたからな」
常葉が右手を前に出した。上に向けた手のひらの上に、ぼうっと淡く浮かぶ光。
あ、と思った。この光の玉は、おじさんの“願い”だ。
「自分の店を持ちたいと。自分の作るもので、多くの人に笑顔を与えたいという揺るぎない夢だ」
「笑顔……」
紗弥と同じだ。あのおじさんは、紗弥と同じ“夢”を持っていたのか。
まわりの人たちに笑って欲しいという、大きな自分の夢の土台にある、小さな芽のような夢のモト。
「そんなふうに思ってたんだ、あのおじさん」
「まあ、良い伴侶を選んだことが、運が良かったと言うほかないが」
「そうだね。おじさんのたこ焼きじゃちょっと笑顔にはなれなかったから」
あのまずい味を思い出して苦笑いをする。常葉にも食べさせたかったと言えば、常葉は真顔で「結構だ」と返す。