「ん……? なんだ、千世か。何をしているんだお前」
強打したお尻を撫でるわたしに呆れたような目を向けつつ、常葉はまだ眠そうな顔で銀色の髪を掻き上げた。
見上げた姿はいつもどおりの常葉だ。何度かまばたきをして目を凝らすものの、今目の前にいる神様はいつもと何ひとつ変わらない。
はああ、と、息を吐く。
「なんだじゃないよもう」
スカートの砂を払うとお尻がズキズキ痛んだ。青あざでもできていそうだ。最悪。この歳でモウコハン復活とか。
「常葉のせいだからね。常葉のせいでびっくりして転んだんだから」
「俺が何をした。千世がまぬけで尻が重いのを俺のせいにするな」
「うるさい! まったくもう。常葉が、なんか透けてたから驚いたんだってば」
転んだ拍子に投げ飛ばしたカバンを拾ってお賽銭箱に立てかけ、体を起こした常葉の隣に腰かける。
「透けていた?」
「そうだよ。あんたの体の向こうに下の木目が透けてるんだもん。そりゃ腰も抜かすわ。くっきりするか一切見えないかどっちかにしてよね」
常葉が消えたりできることは知っているけれど、それでもそのオカシナ現象にわたしが慣れているわけじゃない。急に透けたりなんかされたら、心臓が止まりそうになる。
「本当、カンベンしてよ」
「ん……そうか」
常葉は少しだけ黙ったあと、呟くように言った。
「すまない。油断すると透けるのだ」
「そうなの? わたし一瞬おばけかと思っちゃったよ」
「失敬な。人の霊魂などと同じにするな」
「てかさ、幽霊って本当にいるの?」
「さあ、どうだかな」
常葉はそう言って、ひとつ大きなあくびをした。