「よかったね千世。お仕事ばっちり完了じゃん」
「うん。紗弥、本当にありがとう。紗弥のおかげだよ」
「どういたしまして。まあ、あたしにとっても良い経験だったしね」
紗弥はもうひとつぱくりと口に放り込んで、むぎゅむぎゅとほっぺを膨らました。
それから、飛んできた落ち葉をくしゅっと踏んで、呟くように言った。
「こういうことだなって、思い出したし」
「ん、何が?」
「おじさんに、ありがとうって言われたこととか。おばさんが楽しそうに売ってるとことか。お店のもの買ってる子たちの表情とか見ててさ、あたしがパティシエ目指したのもこういう理由があったんだって」
紗弥がちょっと照れくさそうにへらっと笑う。
「お菓子作ったり、食べたりするのが好きって言うのも当然だけど。一番の理由はさ、たぶん、あたしがお菓子作ると、みんなが喜んで笑ってくれるのが嬉しかったからなんだよね」
「うん」
「いつまでもみんなに笑って貰える人でありたいって思ったの。きっと、ずっとお菓子を作ってたいっていうのよりも先に、もっとみんなに喜んでもらいたいっていうのが、夢のモトみたいに、あたしの夢の根底にあるんだろうな」
紗弥がなんとはなしに上を向くから、わたしもつられて空を見た。そうしてふいに、常葉と一緒に見た、大きなくすのきを思い出す。
太い幹からたくさん分かれたいくつもの枝。人の歩く道も、同じように、少しずつ枝分かれをして、それぞれの自分だけの道に進んでいく。
紗弥が、きっと幹から近い枝分かれで目印にした、小さな理由。