数日後。わたしは紗弥ともう一度、あのお店へ行ってみた。

正直不安ではある。経営のなんたるかなんてもちろん知らないけれど、そう簡単に何かが変わるのなら世の大人は誰も苦労はしないだろう。


「ああ、なんか緊張するな。しばらく通らないようにしてたからなあ」

「なんで千世が緊張するの。大丈夫だって」

「むしろ紗弥はなんでそんなに余裕なの? 他人事だから?」

「ちょっと、あたしが薄情なやつみたいな言い方しないでよ。そうじゃなくってさ」


と、そこで紗弥が言葉を切り「あ」と先を見ながら呟く。つられてわたしも視線を向けて、それから同じく「あ」とだけ漏らした。

そこはつい数日前まで誰ひとり立ち寄ろうとしなかった場所だ。それが今は人だかりができ、賑わいの中心となっている。


「何あれ。すごい人いる!」

「だから言ったでしょ、大丈夫って」

「人が集まってること、紗弥知ってたの?」

「千世と見に来ようと思ってたからお店に来たのは初めてだけど、部活の子たちが結構話題にしてたから」


わたしと紗弥は学校で、わざとらしいくらいにあのお店の良い噂を流した。特に紗弥は調理部員たちに熱心に薦めてくれたらしい。

そのあとは、わたしたちが広めなくても勝手に噂は広がった。食べ物に関しては誰よりも詳しい調理部からの情報はどんな宣伝より食いつきがよかった。


「それにしても、本当に成功するとはなあ」

「まあ、イチから立て直すんじゃ到底手に負えなかったけどさ、元々おいしいものを作ってて、それを前面に押し出せばよかっただけじゃん。それで、おいしいものがあるよってみんなに知らせればいいだけでさ」

「うん、実際、それでうまくいったしね」


隙間から見えるカウンターには、忙しそうに働くおじさんと奥さんがいた。

遠くから眺めていたら、ふとおじさんがわたしたちに気づいたようだ。ちょっと待ってて、みたいな仕草をしたあと、しばらくしてわたしたちのところにやってきた。