「そう、そうです。あれなら絶対に売れます」
「まあ、わたしのを……でもあれは趣味で作ってて、自分たちでおやつにするか知り合いの方にお裾分けするくらいしか」
「だから、それを商品にしましょう。きっとできるはずです」
確かにお客さんに出すのであればもう少し工夫は必要だ。ただ、それは決して難しいことではないと思う。
「あたしたち、言うだけじゃダメだと思って一応アイディアはいくつか出してきてるんだよね」
紗弥の言葉にわたしは慌てて今日の調理部の成果が書かれたメモを出した。手渡すと、奥さんの目の色が変わる。
「少しでも参考になればいいんですけど。それ、うちの学校の調理部員たちが協力してくれたんです」
「あたしらも本気で考えたけどさ、おばさん調理師免許持ってるって言ってたから、たぶんこれにおばさんが一層工夫してくれれば結構おもしろいものができると思うんだよね」
「うん、なるほど……確かにおもしろそう」
おそらく奥さんは、おじさんと違い根っからの料理人なのだ。好きなことだからアイディアも湧く、得意だからやり方もわかる。
誰かが背中を押しさえすれば、あとは自分の力だけでぐんと前に進んで行く。
「ここって、うちの学校だけじゃなく私学の子たちも通学路にしてるから、学生にウケるように工夫したらいいんじゃないかな? たとえばさ、歩きながら食べられるように持ちやすくパックの形を変えたり」
「それにお店の前にベンチでもあると嬉しいよね」
「そうね、なるほど。うん、そういうのって大事ね。あなた、そのあたりは任せるわ。わたしはちょっと試しに色々作ってみるから」
「なんだよおまえ……本気でやる気か?」
泣きやんではいたものの、見事にひとり置いていかれ呆けていたおじさんが、奥さんの袖を掴む。