「もうわたしが何言っても聞かないからダメになるまでやらせてあげようと思ったけど、ここまでよ。あなたが頑張る姿を見るのは好きだったけど、潔く諦めるのも大事だと思うの」

「おまえまで……そんなこと」

「ねえあなたたち、ありがとうね。こんなことを大人に向かって言うの、きっとすごく勇気が必要だったろうけれど、言ってくれて感謝してる。旦那が、下手なくせにどうしても店を出したいと言うから、うちの父の顔が利くこの商店街で店を出させてもらったんだけど、結果はこのとおり全然ダメ。でもこれで、考えが甘かったんだってわたしたちもちゃんとわかったから」


奥さんがわたしたちにそう言うと、とうとう隣のおじさんはぽろりと涙をこぼした。ぎょっとしたわたしに構わずおじさんはおいおい泣き始める。


「だって、自分の店を持つことが夢だったんだ……。うち、実家が店をやってて、だから僕も自分の店を持ちたくて。知り合いがたこ焼き屋をやってたから、これなら僕にもできると思って始めたんだけど、甘かった。すごく奥が深いんだ。練習はたくさんしたんだけど、どうしても上手くできなくて……」


感極まり声を上げるおじさんの背中を奥さんは摩ってあげている。

わたしはと言えば、大の男が号泣しているところなんて初めて見るからドン引きしてしまって、隣を見ればそれは紗弥も同じくのようで口もとが変に歪んでいたけれど、でも今は、引いている場合などではない。


「あの、すみません、なんかお店閉める方向で行ってそうですけど、わたしが言いたいのはそうではなく」


冷静に流れを戻さねば。決めたはずだ、おじさんがどれほど泣き喚こうが、わたしの知ったことじゃない。


「言いましたよね、メニューを変えましょう。売れるメニューを出せばいいんです」

「……メニューって言ったって、そんなの、そう簡単には」

「昨日おばさんがくれたやつ、超おいしかった。あれを出せばいいんだよ」


紗弥が「ね」と満面の笑みでわたしに問いかける。