空が焼けつつある時間、わたしは紗弥と一緒にふたたびあのお店を訪れた。おじさんだけでなく奥さんもいてくれたのは丁度いい。

二度はともかくまさか三度も来るなんて夢にも思っていなかったのだろう、おじさんは弾けんばかりの笑顔でわたしたちを迎えてくれたけれど生憎今日はお客さんとして来たわけではなかった。

まず紗弥が「話を聞いてもらえますか」とはっきりと言った。おじさんと奥さんはふたり揃って目を見合わせる。

胃が少し痛かった。こんなことをは言いたくはない。だけど言わなければおじさんの願いは叶えられない。叶えなければいけないのだ。だから、わたしが言わなければいけない。

紗弥がわたしの背中を叩く。大丈夫、と目配せして、わたしはようやく腹を括った。


「おじさんの焼くたこ焼き、クソまずいです」


空気が固まったのは言うまでもない。ただしそれはおじさんの纏う空気だ。奥さんのほうは、あまりにストレートなわたしの感想を聞いても驚くことなく「あらあら」と呟くのみだった。

おじさんの顔から血の気が引き、くちびるがわなわなと震えはじめる。だが、このお店を変えるためには、おじさんがどれほど怒ろうが泣き喚こうが知ったことじゃない。こちらも心を鬼にすべきだ。


「ここ、立地はいいのにお客さんが全然来ないのは、単純に商品がお金を払ってまで食べたいものじゃないからです。正直こんなのお客さんに出すなんて信じられない。このままにしていても絶対にお客さんなんて来ないですよ」

「うんうん、食べられたもんじゃない」


紗弥もわざと酷い言い方で合いの手を入れる。


「おじさん、今のままじゃダメです。お店を繁盛させるためには、お客さんが来てくれるようなものを出さないと。おじさんがたこ焼きを作る修行ももっとしなきゃダメだけど、それには時間がかかりそうだから、とにかく今はメニューを変えるべきだと思います」


カウンターから身を乗り出し案外興味深げに聞いてくれている奥さんとは真逆に、おじさんは目がうつろになり僅かによろける始末。だが、倒れる前にどうにか心を保たせたようで、おじさんは青白い顔のままでこれ見よがしなため息を吐いた。