「すみません、たこ焼き6個入り1パックください」
声をかけたのは紗弥だ。だけどカウンターの奥のおじさんは、隣にいたわたしを見て目を丸くした。
「あれ、きみ、この間も来てくれたよね」
「え、あ、はい」
まさか覚えられていたとは。なるほどよほどお客さんが少なく、且つリピーターともなるとさらに貴重らしい。
やはり出来上がるまでは数分待たされた。紗弥はその間できるだけカウンター内を覗いて、その奥でたこ焼きを焼くおじさんの手元を観察している。
「ちょっと紗弥、そんなに見たらおじさんやりにくいんじゃないの」
「だってこういうところにもヒントあるかもでしょ。よく見ておかないと」
止めるのも聞かず紗弥はカウンターに身を乗り出してまで見ていた。やりすぎとは思ったもののもう止めなかったのは、そもそもおじさんが紗弥に覗かれているのに気づいてないようだったからだ。
気にしていないわけでもなく集中しているわけでもなく、ただただ目の前のことだけに必死なのだ。それでもろくに上手くやれないでいる。
「こりゃ、難題だなあ」
紗弥がぼそりと呟いた。
そのとき、ちょんと肩をつつかれて振り返る。とそこにいたのはさっきまでカウンター内にいた奥さんで、おじさんが必死になっている隙に外に出てきたようだった。
「ねえあなた、この間もうちに来てくれたって本当?」
奥さんは横目でちらとおじさんを見た。おじさんはいまだにたこ焼きと格闘中だ。
「はい。2、3日前に」
「でもうちの旦那の作るもの、おいしくなかったでしょう」
「ま、まあ」
はい、なんて言いにくい質問だが、否定することはどうしてもできない。