「ねえ千世、あのお店じゃない?」
ふと紗弥が指差した先には、先日ひとりで立ち寄ったたこ焼き屋が今日もひっそりと建っている。相変わらずお客さんは見当たらない。
「いい、紗弥。死ぬほどマズいからちょっと覚悟しててね。紗弥ならブチ切れるかもしれないけど」
「そんなに? でもお店を繁盛させるにはそれをどうにかしないといけないんだよね」
「うん……できることがあるとは思えないけど」
「こら千世。神様の助手なんでしょう、そういう後ろ向きなこと言わないの」
紗弥が気合を入れるようにわたしの背中を叩く。
「叶えてあげるんでしょ、願いごと」
「う、うん。そうなんだけど」
答えてはみるけれど、神様の助手と言ったって何か特別なことができるわけじゃない。
神様である常葉から神様たる奇跡の力でも授かっていればよかったんだけど、生憎あの神様は不思議なニボシ以外は何ひとつわたしに授ける気がないらしかった。
つまり、ものすごく限られているんだ。
神様の力どころか、人一倍優れた能力のないわたしにはできることっていうのが人並み以上に少なくて、おまけに何ができるのかさえ不鮮明なままでいる。
だけど、それでもできることをしなければいけなくて。
できるだけ、できることをしたいと思っているから。
紗弥にもその為に来てもらった。自分に力が無いわたしが、まずできることをやってみるため。誰かの神様への願いごとを叶えるために。
「よし、紗弥、頑張るぞ」
「その調子。さあ行くぞ」
オウ、と声を出し勇んでお店まで行けば、相変わらずお客さんのいないたこ焼き屋さんには先日と同じくあのおじさんが立っていたものの、奥に別にもうひとり、この間は見かけなかったおばさんもいるのが見えた。あれが一緒に経営しているという奥さんだろうか。