「あらあら、それは早く帰らなければね。ではまたの機会に」
「あ、はい。ぜひ」
わたしがだらしなくにへらと笑うと、安乃さんはくすっと綺麗に目を細めた。
柔らかな笑い方に、ほうっとちょっとだけ見惚れてしまった。前に会ったときも思ったけれど、なんだかとっても素敵な人だ。うちのばあちゃんなんかとは全然違う。
わたしもいつか歳を取ったら、こういうおばあちゃんになれるかな。……だめだ、その未来まったく想像できない。
「千世さん」
呼ばれてハッとした。慌てて「はい」と答えると、安乃さんは柔らかな表情のままでじいっとわたしを見ていた。
それは、どこか奥深くまで、見通しているような視線。でも嫌な感じじゃなく、とても優しい視線。
……なんだろ、わたしなんか、変な顔してるかな。もしかして、さっき食べたたこ焼きの、青のりでも付いてるかしら?
「あの……」
恐る恐る呟くと、安乃さんは少しだけ笑みを深くして、言った。
「千世さんがいてくだされば、賑やかでいいわね」
「へ……?」
咄嗟に何を言っているのかわからなくて首を傾げた。でも安乃さんはそれ以上は言わずに、バッグからおまんじゅうを取り出してわたしの手に握らせる。常葉も好きな、三波屋のおまんじゅう。
「歳を取ったせいで、体が言うことを聞かなくなってね。近頃はなかなか行けなくなっちゃったんだけど」
「あ……」
常葉のいる神社のことかと気づいた。
安乃さんはずっと小さい頃からあそこに通ってるって、常葉が言っていた。
「お手伝い頑張ってくださいね。おまんじゅうもよければ食べて」
「あ、はい。ありがとうございます」
「引き止めちゃってごめんなさい。気を付けて帰ってくださいね」
「はい……」
ぺこりとお辞儀をすると、安乃さんは手を振ってくれた。わたしも振り返して、家までの道をまた進んだ。
帰る途中でもらったおまんじゅうを食べた。いつもと変わらず、おいしかった。