「こんにちは」
「あ……こんにちは」
ぺこりと頭を下げた先にいたのは、前に神社で常葉と仲良く話していたおばあさんだ。確か、安乃さん、だったはず。
安乃さんの隣には同じように雰囲気の落ちついた美人のマダムが立っていた。なんとなく顔つきが安乃さんと似ているように思う。
「あらま、かわいい娘さんね。お母さん、お知り合いの方?」
「ええ、この間、常ノ葉さんでお会いして。えっと……」
「あ、七槻、千世と言います」
ぺこりと、もう一度深く頭を下げると、安乃さんとマダム(たぶん娘さんだ)に「千世さん、良いお名前」と声を揃えて言われた。ちょっと照れ照れしながら、そう言えば常葉にも同じことを言われたなと思い出す。
「千世さん、高校生さんかしら? お若いのに常ノ葉さんへお参りなんて偉いのね。あそこに行く人なんて、うちの母くらいだと思っていたわ」
「あら、時々他の人も来るのよ」
「え、ええ、たまに来ます。でもわたし、お参りに行ってるんじゃなくて、今、あそこでちょっと手伝いをしていて……」
言うと、またふたりは「偉いわねえ」と声をそろえた。
「町内会の何か?」とか「学校でボランティア?」とか聞かれたけれど、「いえ、決して偉くはないのです。神様に祟りというものでおどされているから通っているだけなのです」なんて本当のことは当然言えずに「えへへ……」と苦笑いでごまかす。
「じゃあ、お母さん、わたし先に戻ってるわね」
マダムがすぐ脇にあった門をくぐっていった。見送りつつ見上げてみた立派な門構えの向こうには、厳かな古い木造の屋敷が建っている。
「……ご立派な、お宅で」
「古いだけですよ。昔から持っている土地だから、無駄に広いの」
嫌みな感じはひとつもなく安乃さんはそう答えて「よかったらお茶でもいかがですか?」と誘ってくれた。
だけどこのお家にお邪魔するのは気が引けたので、
「お、お構いなく! 母が夕飯つくって待ってるので!」
と慌てて首を横に振った。