歩き慣れた帰り道だった。

小さな商店街。その途中にある最近見つけた小道から、商店街の裏路地に入って、静かな道を、ひとりでゆっくり歩いていく。


商店街は、地元民に愛される素朴で楽しげなところだ。本当に昔ながらのっていう感じ。

近所のおばちゃんと八百屋の店主がしゃべっていて、時計修理のおじいちゃんが、店先でたばこを吸っている。

裏路地は反対にとても静かだ。でも本当にしんとしているわけじゃなく、商店街の賑やかさが遠くに聞こえるのも心地よさのひとつ。

商店の裏手と、民家の裏手に挟まれた石畳の小道は、こつこつと、ローファーの音を響かせた。


この町に来たのは、高校入学の少し前。

念願のマイホームをようやくゲットして、わたしの高校進学に合わせて家族全員でこの町へ越してきた。

育ったところからそんなに離れているわけじゃない。ただ当時は、ここはまったく見知らない不思議な町だった。


前住んでいた町よりも少し田舎だけれど、そんなに不便に感じたことはない。必要なものは揃うし、うるさいのは嫌いだ。

友達づくりだけが心配だったけど、紗弥のおかげで、そのあたりの不安もすぐに消えた。


毎日通る商店街は、好きな場所のひとつになった。

とくに最近見つけたこの路地裏は、一番のお気に入りだ。

大好物の三波屋のおまんじゅうを食べながらのんびりだらだらと家まで帰る。

それがわたしの、幸せな時間のひとつ。


ずっと、こんなふうに、何気ないのんびりとした日々が続けばいいと思う。

好きな場所で、好きなことだけをして、難しいことは考えないで、ふらふらとどこかを歩き続ける。


「…………」


でも、そんなこと、できっこないってわかっている。

いつまでも同じことばかりはしていられない。

いつかは、前へ。大人になるために。


そんなこと、ちゃんと、わかっているはずなのに。