切実すぎて苦笑いすら浮かばない願いを、おじさんは何度も両手をすり合わせて唱えていた。そして、結局わたしには一切気づかないままで、来たときとは逆の重い足取りで、神社を後にした。

握られた手が離れたところで、わたしは隣の常葉を見上げる。


「常葉……いつの間に戻ってきてたの?」

「ずっといた。屋根の上で昼寝をしていた」

「ふーん。わたしが頑張ってお掃除してる間にねえ」

「それよりも千世。喜べ。新たな仕事が入ったぞ」


常葉がわたしからほうきを奪い、ポンと肩に手を置いた。


「掃除は俺に任せろ」

「いやいやいや、神様にお掃除とかさせられないんで」

「気にするな。千世は自分の仕事を頑張れ」

「お掃除がわたしのお仕事なんで。常葉こそ自分の仕事頑張れ」

「今の願いを叶えるのは千世だぞ」

「荷が重い!!」


何言ってんだこの神様。今のお願いはどう考えても神様が神様の力でもってやるべきお仕事だろ。

おじさんの様子から見て明らかに切羽詰まっているお店の経営を立て直すなんてわたしにできるはずがない!


「お前にならできる。俺は信じている」

「わたしの力を過信しすぎだよ!」

「いいからつべこべ言わず行ってこい。店の場所はここだぞ。わかったな」


聞く耳持たずでわたしに情報を伝えると、常葉はほうきを奪ったままスッと消えてしまった。

ぽつんと残されたわたしはひとり、痛むこめかみを押さえて歩き出す。

なんだかんだ行動を始める自分って、結構偉いなって、誰も褒めてくれないから自分で褒めておいた。