ニーニーと可愛らしい声が聞こえた。軒下からクロちゃんのお子様たちがてちてちと出てきていた。
クロちゃんは、ユイちゃんの腕の中からぴょんと飛んで、足元の子猫たちを舐めている。
ユイちゃんはそれをじっと見つめていた。お母さんはそんなユイちゃんを、何も言わずに見守っているみたいだった。
これからのことはユイちゃんたちが考えること。わたしの仕事は、もうおしまい。
お腹も空いてるしそろそろ帰ろう。沈んでいくオレンジのお日様を見上げながら、てこてこと、ぐうたら寝ている猫ちゃんたちの隙間を歩き出した。
そのときにふと。
「ありがとう」
ユイちゃんの声で振り向いた。
きょとんとしていると、ユイちゃんはくしゃっと笑って、言った。
「クロを見つけてくれてありがと、おねえちゃん。……じゃなくて、神様? じゃないんだっけ、えっと」
「千世で、いいよ」
「ちせちゃん!」
嬉しそうにわたしの名前を叫んで、それからユイちゃんはまた「ありがとう」と言って、ぺこりとお辞儀をした。
正直ちょっと戸惑った。
とても単純で簡単な言葉なのに、それを言われたことと、満面の笑顔に。
そうやって言われるようなことしたっけ。わたしは何ができたんだっけ。
疑問に思いながら、半分困りながら、でもそれ以上になんだかほっぺの奥がむず痒いから。
「うん。どういた、しまして」
わたしはへたくそに、笑い返してみせた。