「……わああ!」
ユイちゃんが上げた大きな声に、わたしは「シイッ!」と人差し指を唇に当てる。
ユイちゃんも慌てて両手で口を塞いだ。そのままで、もう一度、軒下をのぞき込む。
「どうしたの? クロいた?」
腰を屈めるお母さんに、ユイちゃんは無言のままで下を見ろと指をさす。そして首を傾げながらも同じように覗いたお母さんが、「あら」と嬉しそうに声を上げた。
「クロ、お母さんになってたのね」
軒下で、わたしが見つけたときと同じようにそこにいたクロちゃん。
その横には、クロちゃんによく似た真っ黒な体をした子猫が3匹、小さな鳴き声を上げていた。
うごうごしている毛玉みたいな赤ちゃんは、まだ生まれたばかりみたいだ。歩いているような転がっているようなよくわからない動作で、クロちゃんの側で遊んでいる。
「たぶん、クロは子猫を育てるために、ここを離れられなかったんだと思います」
昼間、わたしが覗いたときは、クロちゃんは毛を逆立て威嚇して、最後には猫パンチを繰り出してきた。
もしもユイちゃんのことも、同じように警戒したら。そう心配していたけれど、今、クロちゃんはわたしに向けたのとはまったく違う穏やかな顔で、じっとユイちゃんのことを見ている。
「クロ」
ユイちゃんが呼ぶと、クロちゃんはひとつ小さな声で鳴いて、のそりと軒下から体を出した。
明るくなった場所からまたしばらくユイちゃんを見上げたクロちゃん。ユイちゃんがそっと手を伸ばすと、クロちゃんはその小さな手に、真っ黒な体をすり寄せた。
お母さんになったのに、甘えん坊の赤ちゃんみたいな姿。
そんなクロちゃんと、満面で笑うユイちゃんに、わたしはお母さんと顔を見合わせて、同時に笑った。