◇
すっかり夕暮れの空だった。
建物も木も、人も道も、オレンジ色に染められている。
ある家の前で足を止め、門の外から覗いてみると、玄関の前で女の子がじっと座っていた。
女の子は、エサのようなものが入った小さなお皿の前で、少し悲しそうな顔をしながらそれを見つめている。
「ユイ、いつまでそこにいるの」
ちょうどそのとき、家の中からお母さんらしき人が出てきた。
女の子がその声で顔を上げるのと同時に、お母さんが、わたしに気づいた。
「あら……何か、ご用ですか?」
「あ、あの、えっとですね」
ぼうっと突っ立っていたわたしに、お母さんは不審そうに首を傾げる。
女の子もわたしを見ていた。わたしはぎこちなく笑みを浮かべて、「えっと」と言葉を続けた。
「ここのおうちがクロちゃんを探してるって、聞きまして」
「クロ、見つけてくれたの!?」
女の子が立ち上がってガシャンと門を掴む。
「クロ、どこ!?」
「あの……ここにはいなくて。見つけたんだけど、でも、わたしじゃちょっと連れてこられなくて。場所は、知ってるんですけど」
引っかき傷のある手の甲を隠しながら言うと、女の子は「お母さん、いこう!」と門を開けた。
「ユイをそこにつれてって! ユイが迎えに行く!」
「う、うん。そのつもりで来たから、もちろんだけど」
ちらっとお母さんを見た。
お母さんは少し困ったような顔をしながら、ユイちゃんをちらりと見て、それから「お願いします」とわたしに答えた。