見つからないように屋根の上からそっと顔だけ出して覗くと、小学生くらいの女の子が駆け足で参道を走ってくる。


「お願いごとしに来たのかな……」

「当然だ。うちは神社だぞ」

「わかんないよ、イタズラとかしに来たのかも。お賽銭泥棒とか」

「そんな子どもには天罰を下してやる。宿題がやってもやっても終わらないの刑」

「こわっ!」


カラン、とお賽銭箱に小銭が入る音がした。そのあとに、きちんと手を打つ音も聞こえる。

そのとき、常葉がぎゅっとわたしの手を握った。

それに驚いたのは一瞬だ。わたしが「何してんだ」と怒るよりも先に、声が、聞こえた。


『クロが早く、見つかりますように』

「え……?」


咄嗟に辺りを見回した。隣には当然、常葉しかいない。

でも聞こえたのは女の子の声だ。下から聞こえた声じゃなく。

すぐ側で囁かれたみたいに、頭の中に、直接響いた声。


「何、今の? 女の子の声がした」

「ああ、あの子どもの願う声を千世にも聞かせたのだ」

「願う声?」


足音がした。見ると、女の子がまた、駆け足で参道を戻っていった。

小さな背中はすぐに見えなくなる。


「なるほど。どうやら、猫を探しているらしい」

「猫?」

「ああ、こういう猫だ」


常葉が、人差し指をわたしのおでこにそっと当てた。

すると何かが、頭の中に浮かんでくる。猫だ。見たことのない猫。真っ黒な体で、おでこのところだけ丸く白い模様がある。