「わああ! すごい、大きな木……気づかなかった、こんなのあったんだ」

「この社が建てられたときより生きているくすのきだ。いつの間にか社の屋根を優に越えるほど大きくなった」


お社のちょうど裏側で、境内を見守るように立つその木は、この位置からでもずっと見上げるほどにてっぺんは高くて、横にも大きく枝を広げている。

立派な木だった。


「人の生とは、木と同じだ」


千世、と常葉がとても小さな声でわたしの名前を呼んだ。伸ばした指先が、木の根っこのほうからゆっくりと上へなぞっていく。


「はじめは誰もが同じ1本の幹。この世へ生まれ愛され、そして言葉を覚え他人と接し、やがて少しずつ違った道を歩み始める」


常葉の指が、幹から続く太い枝を指していった。その枝からも、幾本も伸びる、また新しい細い枝。次々と、いくつも分かれて繋がっていく。


「人の道は探すものではない。もう確かにそこにあるのだ。初めて歩んだ場所から、数え切れないほどに枝分かれをして、自分のいる場所の先に長く長く続いている。

どの道を選ぶかは自由だ。人はそれぞれの夢を持ち、それを目印に、行く道を辿っていく。

別れ道はまたいくつもある。迷うこともある。恐ろしくもある。引き返すのもいい。それが人だ。

たとえ幾度笑われようと、挫けようと、目印さえあるならば、何度でもまた、歩き出せる」


ひらりと葉っぱが落ちてきた。常葉はそれを、手のひらで受け止めた。

どこまでも伸びる無数の枝の先に、茂った青い緑の葉。


「常しえに茂る葉のように、いつか花咲くを待ちわびて。広い空を凛と仰ぐ、消えることない、確かな標」


風が吹くと葉っぱが揺れた。ざわざわと、木が動いているみたいだった。

沈もうとしている夕日が横からそれを照らしていた。雨のしずくに当たるたび、星の粒をまき散らしたみたいに白く光った。


「夢を願え、千世」


世界がきらめく。