雲の減った空に夕日が浮かぶ。いつの間にかオレンジ色に変わった空。

雨上がりの匂いがしていた。空は晴れても、わたしの心は、いつまでだってぐるぐる雲が渦巻いたまま。


「千世」


常葉がふいに立ち上がった。じゃり、と下駄の下で砂を踏む音がした。


「俺は千世が、夢を持つことを望んでいるわけではない。夢を願い続ける心を、忘れず持っていてほしいのだ」

「なにそれ……なんか違うの?」

「違う」


顔を上げると常葉は振り返った。髪に夕日が反射して、輪郭がキラキラ光っていた。

美貌の神様は、それこそ夢みたいに綺麗なお顔でわたしに微笑む。

わたしは何も言えないまま、何も考えられないまま、じっと、睫毛の奥の琥珀色を見つめていた。


だから、自分に伸びてきている腕にも気づくのが遅かった。

あれ、と思ったときにはもう長い腕が腰に巻き付いて、ハッとしたときにはすでに、わたしは常葉に担がれていた。


「……え?」

「案外軽いな千世。米俵よりも軽いぞ。もっと飯を食え」

「ちょ、ええええ!?」


なんなんだコレ。どうしてんだコレ。

なんでこの流れで今わたしは担がれることになった?


「ちょっと何してんの!?」

「仕方なく担いでやっている」

「わたしが頼んだみたいな言い方すんな! もう、下ろしてよ!!」


暴れてみても当然のように神様は意にも介さない。

それでもじたばた叫んでいたら「やかましい」とお尻をベシッとはたかれた。もうお嫁にいけない。