「さ、ジャマしちゃ悪いから、早いとこ帰らせていただこうかしら」
顔を上げたおばあさんは、ものすごくいらない気を遣ってくれたみたいだ。お参りを終えると早々に畳んだ傘を持ち直して、短い参道を戻っていく。
そうして、その後ろ姿が鳥居をくぐったところで、こちらを振り向き一度頭を下げた。
トントンと、ゆっくり沈んでいく小さな頭。
「……常葉って、他の人にもちゃんと見えてるんだ」
訊ねたと言うよりは、独り言みたいに呟いていた。
お参りをしていたからたぶん人間なはずのおばあちゃんと、常葉のなじんだやりとりは、これまでにも何度も顔を合わせている風だった。
「まあな。俺はご近所に知り合い多いぞ」
「それって神様として大丈夫なの?」
「向こうは俺のことを神とは知らない。安乃もそうだ。ご近所の、何をしているかわからないちょっと不思議な美青年くらいにしか思っていないだろう」
「ヤスノ?」
「今訪れた者の名だ」
ふうん、と何気なく相づちを打ちながら、今のおばあちゃんは何を願ったんだろうと思った。
じっと見ていたけれど、願いを請っているにしては、穏やかな表情だった。
「……て言うか、今のってお仕事だよね?」
「ん?」
「参拝に来てくれた人の、願いを叶えるのが仕事でしょ。ぼうっとしてる場合じゃないよ」
滅多に人の来ないらしいこの神社にやってきたまたとないチャンスだ。逃すわけにはいかない。そうして、祟りもとっとと解いてもらわなきゃいけない。
だのに。