「ほら来たぞ、参拝者だ。千世、ちょっとずれろ」

「え? ちょっとなになに」


お社の正面ど真ん中に座っていたわたしは、常葉に押されて隅のほうにずらされた。

なんだなんだと思っていたら、しばらくして、鳥居の向こうに階段をのぼってくる頭がぴょこんと見えた。


「うわ……本当に来た……」

「だから言っただろう」


折り畳んだ傘を右手に掛けていた。お上品な服を着た、人柄の良さそうなおばあさんだった。

おばあさんは鳥居をくぐり、わたしたちを見つけると「あら」と声を上げてふわりと笑う。


「こんにちは」

「ああ。いつもご苦労だな」

「お互い様ですよ」


お社の前まで来たおばあさんは、わたしに目を向けるととてもなめらかな仕草で頭を下げた。

わたしも慌ててお辞儀を返す。おばあさんは、しっかりとした足取りだったけれど、近くで見ると結構お歳を召している感じだった。

常葉とは顔見知りみたいだ。まさかこのおばあさんも、神様ではあるまいな。


「雨、上がりましたね」

「そうだな。明日は久し振りに一日晴れるらしい」

「ええ。でもそう言えば昨日も、夕方突然晴れましたね」

「神の気まぐれだ」

「ふふ、そうかもしれないですね」


どきっとして冷や汗を流すわたしの横で、常葉はのんきに空を見上げ、おばあさんは朗らかに微笑んでいた。


「さて、今日はおまんじゅうを買っていないのでお賽銭でいきますね」


おばあさんは、バッグからお財布を出すと、小銭を取り出してお賽銭箱に投げ入れた。

それからパンパンと2回柏手を打って、お社に向かい手を合わせる。


ほんの少しだったけれど、時間が止まったみたいにゆったりと流れたその間。

わたしと常葉は、じっと静かに、おばあさんのことを見ていた。