「千世にはきっと良い嫁入り先が見つかるなあ」
「神様のくせにゲンキンだなあ」
止んできた雨を眺めながら、ふたりでおまんじゅうを食べていた。
ゆっくりと時間が過ぎていく。大粒のしずくが、屋根の縁でぷっくりと膨らんで落ちた。
「ん、あがったな」
最後のひとかけを飲み込んだ常葉がぽつりと言った。
降り続いていた雨が、ようやく止んでいた。明日は久しぶりにすっかり晴れると聞いている。
「これはあんたの仕業じゃないよね」
「違う。千世の願いを特別に叶えてやるのは一度きりだ。昨日のはさーびす」
「別にわたしだって毎度願うほど雨に止んでほしいわけじゃないよ」
うねうね分厚く漂っていた雲が、ゆっくりとどこかへ流れていく。
少し明るくなった空は、でも、ちょっとずつ夕方のそれに近づいていた。
鳥がどこかで鳴いている。遠くから、商店街のにぎわいが響く。
「ねえ、常葉」
「なんだ」
「聞くけど、ここって参拝に来る人いるの?」
昨日雑用まで押しつけられた理由がわかる気がする。
神様の仕事を手伝えと言われても、そのお仕事が、来なさそうな雰囲気なのだ。
パワースポットとして近頃人気の大きい神社ならいざ知らず、こんな寂れた小さなお社、イマドキお参りに来る人なんていない気がする。
「失敬な。たまに来る」
「たまになんだ……ねえ、わたし今日はもう帰っていい? 絶対に人来ないじゃん」
「だめ」
「懐狭い神様だなあ。おまんじゅうあげただろうが」
「明日も持って来いよ」
「いやだよ。お小遣いなくなる」
べーっと舌を出した丁度そのときだ。常葉が「お」と声を上げた。