「よく来たな、千世」


石の階段をのぼった先、ぼろい赤い鳥居をくぐると短い参道があって、その奥にお社がある。

お賽銭箱の向こう、昨日も座っていた場所に、そいつは今日もにこやかにいた。

実は昨日のアレは全部夢でした。っていうオチもちょっとは期待したけれど、事実は小説よりもオカシナことになっているらしい。

たいそう綺麗なお顔で、ひらひらと手を振る姿がなんとも恨めしい。


「遅かったな。俺は待ちくたびれた」

「学校あるんだからしょうがないじゃん。これでも授業終わってすぐに来たんだけど」

「そうか、良い心がけだ。俺は来ないかもと心配してしまった」

「祟られてさえいなかったら来るわけなかったんだけど」

「すっかり待ちくたびれたぞ」

「はいはい、聞いた」


はあ、とため息を吐いて傘を畳んだ。神様だかなんだか知らないけど、もうこいつの前では礼儀も行儀も知ったこっちゃない。

カバンを放り投げて、常葉の隣にどかっと腰掛けた。足も背筋もぐっと伸ばして体をほぐす。

ぱきぱきと関節から音が鳴った。最近は雨ばっかりだから、なんだか気が滅入って余計に疲れる気がする。


「千世ははしたない娘だな。もう少ししとやかにせねば、嫁の行きどころがなくなるぞ」


腕を伸ばす横で、常葉が顔をしかめていた。わたしは軽く唇を突き出す。


「そういう悪口言っちゃうと、おまんじゅうが食えなくなるぞ」


常葉の瞳がハッと見開いた。

さっき買ったばかりの袋を見せると、ふにゃりと表情が柔らかくなった。