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三波屋のおばちゃんとはすっかり顔見知りになった。
週に2、3回は来ているお店だ。もう常連さん扱いされていて、ちょっと恥ずかしかったり、うれしかったり。
「こんにちは」
「あら千世ちゃんいらっしゃい。2日続けてくるのは珍しいね」
「あはは……あの、あんこの2個お願いします」
「はいはい、すぐ用意するね」
おばちゃんは慣れた手つきでおまんじゅうを袋にしまった。
まだ雨が降っているからか、今日は紙袋の上からビニール袋にも包んでくれた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。雨、止みかけてきてるけど、まだ気をつけてね」
返事をしながら受け取ると、「そう言えばさ」とおばちゃんがカウンター越しに顔を近づける。
「昨日土砂降りだったけど、急に晴れたの知ってる?」
「え?」
「ちょうど今頃の時間じゃなかったかな。千世ちゃん、もう家に着いちゃってた? 雨すごかったのにね、ふわあっと気づいたら止んでたのよ」
「へ、へえ……知らなかった、です」
「不安定なのかねえ。秋じゃないのに移ろいやすい空模様なのかしら」
首を傾げるおばちゃんに、「そうかもですね」と適当に返事をしてお店を出た。
軒先で傘を差すとしずくがはじける。わたしは、真っ赤な傘の小さな屋根の下、小降りになってきた雨の中をまた歩き出した。
三波屋のおまんじゅう片手に。いつもはのんきに歩く道を、今日はちょっと、重い足取りで。