「ところでさ千世!」
紗弥がぐっと身を乗り出した。
驚いてムセかけるわたしのことは気にもとめずに、妙に楽しげなにやけ顔で訊いてくる。
「幼なじみの情報、まだないの?」
「……情報?」
「そろそろ時期でしょ。決まる頃かなと思って」
言われて、ああ、と思い至った。
わたしの幼なじみの野球少年、大和が今年もレギュラーを、勝ち取れたかっていうことだ。
紗弥は高校野球のマニアでもある。
「うん。昨日夜メール来た。ばっちり抜かりなくピッチャーだってさ」
「おお! さっすが神崎くん! やっぱりあそこのエースは彼しかいないよねえ」
「そうなの?」
「そうなのって千世! 去年の甲子園見に行ったんでしょ! あんな球投げられるの他にそうそういないって!」
笑ったり怒ったり、とりあえずはしゃいでいる紗弥に適当に相づちは打つけれど、あいにくわたしは野球のことにはさっぱりなんだ。
小さい頃から大和の試合をしょっちゅう見学していたけれど、そのスポーツ自体に興味が沸いたことは一度もなかった。
ぶっちゃけるとルールもイマイチわかっていない。昔大和に教えられたけれど、投げたボールを打って走るくらいのことだけ理解した。
ただ、野球をしている大和のことは、どれだけ見ても飽きなかった。
去年の甲子園で、久し振りに大和の試合を見たときも。
まだ、一緒に手をつないで、寂しいときはおんなじ布団で寝ていたりした小さな時から、ずっと。
大和は、ユニフォームを着て、グローブを着けて、ボールを持っている間、この宇宙の誰よりも、綺麗だった。