「そう考えると千世はうらやましいよ。夢がないって言っちゃうとあれだけど、つまり、これから先、無限に可能性があるってことじゃん」

「無限……」

「うん。どんな道だって選べる。それって結構、すごいことだと思うんだよね」


にいっと笑いながら、紗弥は開いていたわたしの口に、またクッキーを挟んだ。

わたしはそれを半分砕いて、ごくんとのどへ流し込む。


「……でも、どんな道も選べない、って可能性もそこにはあるんじゃ」

「まあそりゃそうだよね。それはあたしにもあることだし。夢持ってたって叶うかどうかはまた別の話だから。こういうのって努力だけでどうにかなるもんでもないじゃん」

「……結構シビアだね」

「夢も見つつ現実も見つつ、ね。ただ、できる限りはめいっぱい、もがいたり迷ったりするのも悪いことじゃないと思うよ」

「そういうもんかなあ」

「さあ」


あっけらかんと答える紗弥に呆れつつ、半分に割れたクッキーを食べた。

外は大雨。窓に打ち付けた雨が、いくつかのすじになって下へ伝っていく。


まぶしいなあと、思う。

うらやましいのは、やっぱり紗弥のほうだ。

何かに向かって進んでいる。自分の目指すべき道を知っている。

それってほんとにすごいことだって、持たないからこそ、わたしは知ってる。


……無限の可能性、なんて言うけど、現実は、そんなはずもないし。

自分には、たったひとつの可能性すらないように感じちゃう。


わかんないんだ、わたしはまだ。

どうやって、これから先の道を見つけていくのか。どうやってその先へ、進んでいけばいいのか。


どうやったら、他にふたつとない、たったひとりの自分になれるのか。


その方法が、わからない。