「紗弥はいいよなあ。うらやましいよ」


ほとんど独り言に近いつぶやき。机の木目を目でなぞりながらぼそりとわたしは漏らしていた。


「ん、なにが? 美人なこと? 社交的なこと?」

「そ、それもだけど……将来の夢、はっきり決まってるとこ」


だって、夢に向かって頑張るのってすごくかっこいいし、もう未来への道、明るそうだし。

それに、もしもわたしが紗弥みたいにちゃんと夢を持っていたなら、性悪神様に呪われるだなんてことも、きっとなかったんだろうし。


「あーあ……わたしってほんと、なんでこんななんだろ」


16にもなってロクに自分のことすら考えられない。


夢、なんて、みんな。

どうやって見つけていくんだろう。



「でもあたしはさあ、逆に千世がうらやましいよ」


紗弥がクッキーをつまんでふいに呟く。


「うらやましいって? わたしが?」

「うん。だって、夢がないってさ、つまりこれから、どんな夢でも見られるってことでしょ」


小さなクッキーの半分が、ぱきりと音を立てて紗弥の唇の奥に消えた。


「あたしさ、パティシエになりたいって夢、小さい頃から持っててさ。ずっと変わんなくて、それを知ってる人たちはすごいねーって言ってくれるし、自分のやりたいことだからこれから先も頑張ろうとは思ってるんだけど」

「うん」

「ただそれって、もうそれだけしか見えなくて、他の道は見られないってことじゃん」


残りの半分がぱくりと消える。

溶けたチョコチップが手に付いたのか、紗弥は飾り気のない指先をぺろりと舐めた。